成年後見制度の費用負担はどう変わる?2026年改正の影響を解説

現行制度の費用負担:まず現状を把握する

成年後見制度の費用負担は、多くの家族にとって見落とされがちな「長期的なコスト」です。現行制度では一度後見が始まると原則として終身継続されるため、費用も一生涯にわたって発生し続けます。

まず現行制度における主な費用項目を整理します。

💴 現行の成年後見制度でかかる主な費用
申立て費用 家庭裁判所への申立て手数料(収入印紙)・登記費用・鑑定費用(必要な場合)等。合計で数万円〜20万円程度かかるケースがある
後見人への報酬
(専門職後見の場合)
司法書士・弁護士等の専門職後見人を選任した場合、月2〜6万円程度(管理財産額・業務内容により異なる)が本人の財産から支払われる。年間24〜72万円規模になることも
監督人への報酬 後見監督人が選任された場合、月1〜3万円程度が別途発生。後見人とは別に支払われる
継続期間 現行の終身制では、本人が死亡するまで上記費用が発生し続ける。10〜20年以上にわたると総額が数百万円に達することもある
報酬の決定方法 家庭裁判所が管理財産の額を主な基準に判断。具体的な業務内容・難易度は考慮されにくいという指摘があった
「相続手続きのためだけ」に後見を始めたのに、一生費用がかかり続けるケースがありました。
例えば遺産分割協議への参加のために後見を申立てると、手続きが完了した後も後見は継続され、毎月の後見人報酬が本人の財産から差し引かれ続けるという問題がありました。この構造的な問題が2026年改正で大きく変わります。

「費用が重くなる」最大の原因は終身制にあった

成年後見の費用負担が重くなる最大の原因は、「一度始めたら原則として死ぬまでやめられない終身制」にあります。

❌ 現行制度の費用構造
・後見開始→死亡まで継続が原則
・「遺産分割のためだけ」でも終身
・判断能力が回復しても原則終了不可
・毎月の後見人・監督人報酬が
 本人財産から出続ける
・総額が数百万円規模になることも
・費用を恐れて申立てを躊躇する人も
✅ 改正後の費用構造(施行後)
目的達成で途中終了が可能
・「遺産分割のためだけ」ならその完了で終了
・必要な期間だけ費用が発生
・スポット利用で総費用を大幅圧縮
・費用予測が立てやすくなる
・制度利用への心理的ハードル低下が期待

2026年改正で費用負担はどう変わるか

2026年6月17日に成立した改正民法(公布から2年6ヶ月以内に施行予定)により、成年後見制度の費用負担に関わる変更点は複数あります。

改正内容 費用への影響
① 終身制の廃止 最大の費用削減効果。目的達成で終了できることで、不要な継続費用が生じなくなる
② 「補助」への一元化 代理権の範囲が限定的なため、後見人の業務量が適切に絞られることで報酬が抑制されるケースがある
③ 報酬の適正化 具体的な事務内容を考慮する旨が明記。業務量に見合った報酬設定へ移行し、過大・過小報酬の是正につながる
④ 監督人選任要件の緩和 明らかに監督の必要がない場合は監督人を置かずに任意後見を開始できる。監督人報酬が不要になるケースが生まれる
⑤ 任意後見と補助の併用 任意後見をメインに使い、必要な場面だけ補助をスポット利用することで、専門職後見の費用を最小化できる可能性がある
💡 費用削減効果は「使い方次第」です:
改正後も、判断能力を常に欠くような重篤なケースでは「特定補助」による継続的な後見が必要になる場合があります。改正の恩恵が最も大きいのは「特定の目的のためだけに後見が必要なケース」です。自分の状況に合った使い方を専門家と相談して設計することが重要です。

①終身制の廃止による費用削減効果

費用負担の観点で最も大きな改正が、終身制の廃止です。

費用削減効果の具体例(イメージ):

【現行制度のケース】
遺産分割協議への参加のために後見(補助)を申立て→手続き完了後も後見が継続→後見人報酬が月3万円×残り20年間=合計720万円の費用発生

【改正後のケース(スポット利用)】
遺産分割協議への参加のためだけに補助を申立て→手続き完了で終了→後見人報酬は手続き期間のみ(例:6ヶ月×3万円=18万円)→費用が大幅に削減される

※あくまでイメージです。実際の費用は管理財産額・業務内容・家庭裁判所の判断によって異なります。
「必要な期間だけ支払う」という費用の見通しが立てやすくなります:
現行制度では「いつまで続くかわからない」というのが家族の不安の一つでした。改正後は目的・期間を設定することで費用の総額を事前に見通せるようになり、利用決断のハードルが下がることが期待されています。

②「補助」への一元化が費用に与える影響

現行の「後見」「保佐」「補助」3類型が原則「補助」に一元化されます。これが費用にどう影響するかを整理します。

📋 「補助」への一元化と費用の関係
代理権の範囲 「補助」は3類型の中で代理権の範囲が最も限定的。後見人の業務量が適切に絞られることで、報酬が過大にならない設計になりやすい
必要な権限だけ付与 個別の状況に合わせて代理権を付与する「オーダーメード型」になるため、不必要に広い権限を持つ後見人に高額報酬を払い続けるケースが減る可能性がある
特定補助(例外措置) 判断能力を常に欠くような重篤なケースには「特定補助」が適用される。この場合は不動産取引・預金払い出し等の重要行為への取消権が付与され、業務量に応じた報酬が発生する

③報酬の適正化:「働きに見合った報酬」へ

現行制度では後見人報酬の算定基準が「管理財産の額」を主軸としており、具体的な業務の内容・難易度が十分に反映されていないという批判がありました。

❌ 改正前の報酬算定
・管理財産の額を主な基準に算定
・業務量が少なくても財産が多ければ高報酬
・業務が多くても財産が少なければ低報酬
・「業務の実態」との乖離が生じやすかった
✅ 改正後の報酬算定
具体的な事務内容を考慮する旨が明記
・実際の業務量・難易度に応じた報酬設定へ
・過大報酬・過小報酬の両方の是正につながる
・適正な対価の透明性が高まることが期待
💡 報酬適正化は家族にとって「見通しの安心感」につながります:
「財産が多いだけで報酬が高い」という不満が解消されることで、実際の支援内容に応じた合理的なコスト設計が可能になります。ただし具体的な報酬算定基準の詳細は、施行時の運用方針・家庭裁判所の判断によって確定されます。

④監督人選任要件の緩和:費用が減るケースも

任意後見を開始する際に原則として必要だった「監督人の選任」が、条件付きで不要になるケースが生まれます。

監督人選任要件の緩和(任意後見):

現行制度では、任意後見を開始するためには家庭裁判所に監督人の選任を申立てる必要があります。監督人(多くは専門職)が選任されると、その報酬として月1〜3万円程度が別途発生します。

改正後は、「明らかに監督の必要がないと家庭裁判所が認める場合」には例外的に監督人を選任せずに任意後見を開始できるようになります。これにより監督人報酬が不要となるケースが生まれ、費用負担の軽減につながります。

ただし、本人の保護の観点から「明らかに監督不要」と認められるケースは限定的になると考えられます。

任意後見制度の改正と費用への影響

生前に自分で後見人を選んでおく「任意後見制度」の改正も、費用の観点で注目すべき変更点があります。

改正内容 費用への影響
契約変更・
一部解除の柔軟化
変化した状況に合わせて契約内容を部分的に変更できる。「全部解除して一から作り直す」費用(公正証書費用等)を節約できるケースがある
監督人選任
要件の緩和
前述のとおり、監督人を選任しないことで月1〜3万円程度の監督人報酬が不要になるケースが生まれる
法定後見(補助)
との併用
任意後見を基本として、特定の場面だけ補助をスポット利用することで、専門職後見の費用を最小化しながら必要な支援を受けられる
不開始の合意
(順位付け)
「配偶者が動けなくなった場合だけ子が後見を開始する」等の設計が可能に。後見開始のタイミングを絞ることで総費用の発生期間を短縮できる
任意後見+補助のスポット利用の組み合わせが費用最適化の鍵:
信頼できる家族を任意後見受任者として指定しておき(専門職報酬より安い)、特定の難しい場面だけ補助をスポット利用するという設計が、費用と保護のバランスが最も取れた選択肢になり得ます。施行後の活用方法として、専門家と相談しながら設計することをおすすめします。

費用負担を抑えるための生前対策

成年後見の費用負担を最小化するために最も効果的なのは、判断能力があるうちに生前対策を講じることです。施行を待たず今の制度でできる対策を整理します。

  • 任意後見契約を締結する:信頼できる家族を後見受任者に指定しておくことで、専門職後見人への高額報酬を回避できる場合がある。公正証書による契約費用(数万円)がかかるが、長期的には大きな節約になる可能性がある
  • 家族信託を活用する:成年後見制度を使わずに財産管理を家族に委託できる仕組み。後見人報酬・監督人報酬が一切かからない。判断能力があるうちに設計することが必須
  • 遺言書を作成しておく:相続人が遺産分割協議に困らないよう意思を明確にしておくことで、「相続手続きのための後見申立て」が不要になる場合がある
  • 財産の整理・把握をしておく:財産の所在・種類・金額を整理しておくと、後見人の業務量が減り報酬の算定にも影響する
  • 専門家に相談して費用試算をしておく:自分の財産規模・家族構成に応じて、後見を利用した場合の費用概算を試算しておくと、対策の優先順位がつけやすい
⚠️ 「費用を節約したい」という理由だけで後見の利用を避けるのは危険です。
成年後見制度は本人の財産・権利を守るための仕組みです。費用の問題に過度にとらわれて必要な後見を申立てないことで、本人が不適切な契約・詐欺被害を受けるリスクが高まります。費用対効果を考慮しながら専門家と最適な対策を検討してください。

施行はいつ?今すぐできる準備

施行スケジュールの確認:

✅ 改正民法の成立:2026年6月17日
⏳ 成年後見制度の改正施行:公布から2年6ヶ月以内が目標(おおよそ2028年末〜2029年初頭が目安。具体的な日程は未定)
❌ 現時点では新制度は未施行。現行の終身制が引き続き適用される

今すぐできること:
① 今の制度(任意後見契約・家族信託・遺言書作成)で生前対策を開始する
② 施行後のスポット利用設計を専門家と検討しておく
③ 地域の「成年後見制度に関する相談窓口」(中核機関・家庭裁判所等)に相談する

よくある疑問(Q&A)

Q. 改正前に始めた後見は、施行後も費用が変わらず続きますか?
詳細な移行規定は施行時に確定されますが、改正前から継続している後見については、一定の経過措置が設けられる見込みです。施行後に改めて家庭裁判所への申立て・手続きを行うことで新制度を活用できる方向性が示されていますが、具体的な手続きは施行後の運用方針を確認する必要があります。
Q. 家族を後見人にすると費用は無報酬になりますか?
家族(親族)が後見人になる場合、報酬を受け取らない選択ができます。ただし家庭裁判所が親族後見人に報酬を付与することもできます。親族後見人の場合でも、監督人が選任されればその費用は発生します。また業務量・責任の大きさから、無償での後見継続が困難になるケースもあるため、家族間で事前によく話し合うことが重要です。
Q. 費用が払えない場合、制度を利用できないですか?
成年後見制度利用支援事業があり、後見の申立て費用や後見人報酬の全部または一部を市区町村が助成している自治体があります。利用条件・助成額は自治体によって異なります。お住まいの市区町村の福祉担当窓口または地域包括支援センターに問い合わせてください。
Q. 施行前に任意後見契約を締結しておくことで、改正後のメリットを享受できますか?
はい、大きなメリットがあります。施行後は任意後見と補助の併用が可能になるため、今のうちに任意後見契約を締結しておくことで、施行後のスポット補助との組み合わせ設計がスムーズに行えます。また施行後の「契約変更の柔軟化」も既存の任意後見契約に適用されると見込まれているため、早めに契約しておくことが生前対策として有効です。

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