死亡後の医療費・介護費の精算|高額療養費・還付・未払い請求の整理手順
目次
死亡後の医療費・介護費で「やること」の全体像
家族が亡くなった後の医療費・介護費の精算は、「支払う(未払い分の精算)」と「受け取る(還付・給付の請求)」の2方向があります。どちらも期限があり、申請しなければ還付金を受け取れない制度が複数存在します。
・介護施設の利用料
・訪問介護・デイサービスの利用料
・処方薬・医療器具の費用
・差額ベッド代・食事代(全額自己負担分)
・高額介護サービス費の還付
・高額医療・高額介護合算療養費
・葬祭費・埋葬料(健康保険)
・民間医療保険の入院給付金
・準確定申告での医療費控除
高額療養費・高額介護サービス費は、自動的に還付されるものではありません。請求期限(時効)は2年です。亡くなる前数ヶ月分がまとめて請求できるケースも多く、数万円〜数十万円の還付になることもあります。早めに確認・申請することが重要です。
未払いの医療費・介護費:誰が払うのか
故人が亡くなった時点で未払いとなっている医療費・介護費は、相続人が支払い義務を引き継ぎます。これは「相続債務」として相続財産から差し引ける費用でもあります。
支払い義務の範囲と対応
| 費用の種類 | 支払い義務・対応のポイント |
|---|---|
| 入院費(死亡月分) | 死亡日までの入院費が請求される。退院手続きと同時に精算が求められることが多い。死亡後すみやかに病院の会計窓口で残額を確認する |
| 介護施設の月額利用料 | 死亡月の日割り計算または月額全額請求(施設によって異なる)。施設のルールを確認したうえで精算する |
| 訪問介護・デイサービス | サービス利用終了月の利用料が翌月以降に請求されることが多い。事業者に死亡を連絡し、最終請求額を確認する |
| 保険外の医療費・差額ベッド代 | 全額自己負担のため、病院から個別に請求が来る。領収書を必ず保管しておく |
| 処方薬・医療器具のレンタル | 死亡日以降のレンタル料は支払い不要となる場合がある。業者に連絡して返却・精算を行う |
死亡日時点で未払いだった医療費・介護費は、相続税の計算において相続財産から差し引ける「債務控除」の対象になります。領収書・請求書をすべて保管し、税理士に伝えましょう。相続税申告が必要な方は特に重要です。
相続放棄をした場合、相続人は原則として未払い医療費・介護費の支払い義務を負いません。ただし、すでに任意で支払いをした場合はその分は取り戻せないケースがあります。相続放棄を検討している方は、支払いを行う前に専門家に相談してください。
高額療養費の還付請求:見落とすと損する給付
高額療養費制度とは、1ヶ月の医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。入院・手術・長期通院で多額の医療費がかかっていた方は、死亡前数ヶ月分をまとめて請求できます。
自己負担限度額の目安(2025年度)
限度額は年齢・所得区分によって異なります。
※「+α」は医療費が高額な場合の追加計算分。詳細は加入している健康保険の窓口に確認してください。
| 所得区分 | 外来(個人) | 入院を含む世帯全体 |
|---|---|---|
| 現役並み所得Ⅲ(年収約1,160万円〜) | 252,600円+α | |
| 現役並み所得Ⅱ(年収約770〜1,160万円) | 167,400円+α | |
| 現役並み所得Ⅰ(年収約370〜770万円) | 80,100円+α | |
| 一般(年収約156〜370万円) | 18,000円(年上限14.4万円) | 57,600円 |
| 住民税非課税(低所得Ⅱ) | 8,000円 | 24,600円 |
| 住民税非課税(低所得Ⅰ) | 8,000円 | 15,000円 |
高額療養費の請求手順
| 保険の種類 | 申請窓口 |
|---|---|
| 国民健康保険 | 住所地の市区町村窓口(国保担当課) |
| 健康保険(会社員・元会社員) | 勤務先の総務担当または健康保険組合・全国健康保険協会(協会けんぽ) |
| 後期高齢者医療制度 | 住所地の市区町村窓口(後期高齢者医療担当課) |
主な必要書類:
- 高額療養費支給申請書(窓口またはHPから取得)
- 被保険者(故人)の死亡を確認できる書類(戸籍謄本・死亡診断書等)
- 申請者(相続人)の本人確認書類・続柄証明
- 医療機関の領収書(原本またはコピー)
- 振込先口座の通帳(相続人名義)
同一世帯で直近12ヶ月以内に高額療養費の支給が3回以上あった場合、4回目以降は自己負担限度額がさらに低くなる「多数回該当」が適用されます。長期入院をされていた方は特に確認が必要です。
高額介護サービス費の還付請求
介護保険サービスを利用していた方についても、1ヶ月の利用者負担額が一定の上限を超えた場合に超過分が払い戻される「高額介護サービス費」制度があります。医療費の高額療養費に相当する介護保険版です。
自己負担限度額の目安(月額)
| 所得区分 | 月額上限(個人) | 月額上限(世帯) |
|---|---|---|
| 現役並み所得者(年収約383万円以上) | 44,400円 | 44,400円 |
| 一般(住民税課税世帯) | 44,400円 | 44,400円 |
| 住民税非課税世帯(本人年金等収入80万円超) | 24,600円 | 24,600円 |
| 住民税非課税世帯(本人年金等収入80万円以下) | 15,000円 | 24,600円 |
| 生活保護受給者等 | 15,000円 | 15,000円 |
| 申請窓口 | 住所地の市区町村の介護保険担当課 |
|---|---|
| 申請者 | 相続人が申請可能(続柄証明書類が必要) |
| 必要書類 | 高額介護サービス費支給申請書・故人の介護保険被保険者証・死亡を証明する書類・申請者の本人確認書類・振込先口座情報 |
| 注意点 | 施設サービス(特養・老健等)の居住費・食費は高額介護サービス費の対象外(別途「補足給付」制度あり) |
高額介護サービス費については、市区町村から初回のみ申請書が郵送され、以後は自動振込になる仕組みの自治体が多くあります。生前に申請が済んでいた場合は、死亡後の未支給分のみ相続人が申請します。
高額医療・高額介護合算療養費制度
医療費と介護費を合算して一定額を超えた場合に還付を受けられる制度が「高額医療・高額介護合算療養費制度」です。医療費も介護費も多かった世帯にとって、見落とすと非常に損をする制度です。
毎年8月1日〜翌年7月31日の1年間に、同一世帯内で支払った医療費自己負担額+介護費自己負担額の合計が年間の上限額を超えた場合、超えた部分が支給されます。
年間上限額の目安(70歳以上・一般所得の場合):56万円
※所得区分・年齢によって異なります。詳細は市区町村窓口に確認してください。
申請先:医療保険の保険者(市区町村・健康保険組合等)へ申請
時効:計算期間終了翌日(8月2日)から2年
入院と介護施設の両方を利用していた方、または長期間にわたって高額な医療・介護費を支払い続けていた方の遺族は、必ず市区町村窓口で「合算して申請できる金額があるか」を確認してください。
入院費・施設費の精算:退院・退所後の手続き
故人が入院中または介護施設入所中に亡くなった場合、退院・退所の手続きと同時に費用の精算が必要になります。あわただしい時期の手続きですが、確認すべきポイントを把握しておきましょう。
病院の退院精算
| 確認事項 | 内容・ポイント |
|---|---|
| 死亡日までの入院費 | 死亡日を含む日の入院費まで請求される。日割り計算か月額一括かは病院によって異なる |
| 差額ベッド代 | 個室・2人部屋等の差額ベッド代は全額自己負担。病院が同意書なしに請求している場合は拒否できるケースがある(厚労省通知) |
| 食事代 | 入院中の食事代(1食460円・2024年度)は自己負担。住民税非課税世帯は減額あり |
| レンタル品の精算 | 病衣・タオル等のレンタル料が含まれている場合がある。物品の返却を確認する |
| 過払いの確認 | 月の途中で亡くなった場合、前払いしていた費用が返金される場合がある。病院の会計窓口に確認する |
入院費の領収書は高額療養費の申請・準確定申告の医療費控除・相続税の債務控除に使用します。紛失した場合は病院に再発行を依頼できますが、有料の場合もあります。
介護施設の退所精算
| 確認事項 | 内容・ポイント |
|---|---|
| 月額利用料の日割り計算 | 月の途中での退所は日割り計算の施設が多いが、月額全額請求の施設もある。入居時の契約書を確認する |
| 前払い金(入居一時金)の返還 | 入居時に支払った入居一時金の残額が返還される場合がある(初期償却期間・返還方法は契約書で確認) |
| 保証金・預り金の精算 | 食事代等の前払い預り金の残額を精算・返還してもらう |
| 荷物の引き取り | 私物・衣類・医療器具等を所定の期日までに引き取る。期日を過ぎると施設側が処分できる規定になっている場合がある |
| 医療費の清算 | 施設内でかかった医療費(協力医療機関への診察費等)が別途請求される場合がある |
入居一時金の返還を受ける権利の時効は原則5年です。返還条件・金額は施設との契約書に記載されています。契約書が手元にない場合は施設に写しを請求しましょう。
医療費控除(準確定申告)への反映
亡くなった方の死亡年(1月1日〜死亡日)に支払った医療費は、準確定申告で「医療費控除」として所得から差し引くことができます。該当する方は確定申告(準確定申告)を必ず実施しましょう。
✅ 病院・クリニックへの診察費・治療費(保険適用分の自己負担額)
✅ 処方薬の購入費(市販薬は条件により対象)
✅ 入院中の食事代(保険適用の標準負担額)
✅ 介護保険の訪問看護・訪問リハビリ等の自己負担額
✅ 介護老人保健施設・介護療養型医療施設の自己負担額(居住費・食費を除く)
✅ 通院のための交通費(公共交通機関。領収書がなくてもメモで可)
控除対象外の主な費用:
❌ 差額ベッド代(治療に必要な部屋代でない場合)
❌ 介護施設の居住費・食費(介護保険の補足給付を受けていない場合の全額)
❌ 健康診断・人間ドックの費用(疾病が発見されて治療に至った場合は一部対象)
| 控除の計算 | (年間の医療費合計)-(保険金等で補てんされた金額)-10万円=医療費控除額 ※総所得金額が200万円未満の場合は総所得金額の5%を差し引く |
|---|---|
| 必要書類 | 医療費の領収書一覧(医療費控除の明細書に記入)。領収書自体は申告書に添付不要だが5年間保管が必要 |
| 申告先 | 故人の住所地を管轄する税務署。相続人が連署または代表者が申告する |
| 申告期限 | 故人の死亡日から4ヶ月以内 |
年途中での死亡の場合、所得額が少なく税率が低い年が多く、医療費控除による税金の還付が発生するケースが多くあります。準確定申告は「やる義務があるケースだけでなく、やると得するケース」も多いため、医療費が多かった方は必ず確認しましょう。
民間の医療保険・入院保険の請求
公的制度とは別に、故人が民間の医療保険・入院保険・がん保険等に加入していた場合は、入院給付金・手術給付金・死亡保険金を請求できます。こちらも請求しなければ受け取れません。
請求できる給付の種類
| 給付の種類 | 内容・請求のポイント |
|---|---|
| 入院給付金 | 入院1日あたり定額が給付される。死亡前の入院期間分を遡って請求できる。請求期限は死亡日(または入院終了日)から2〜3年が多い(契約内容を確認) |
| 手術給付金 | 入院中に手術を受けた場合に給付される。手術の種類・回数によって金額が異なる |
| がん診断給付金 | がんと診断された時点で給付される一時金。複数の保険に加入していた場合はそれぞれから請求可能 |
| 死亡保険金 | 受取人として指定された方が請求する。受取人固有の財産のため遺産分割の対象外だが、相続税の課税対象になる場合がある |
| 高度障害給付金 | 入院中に高度障害状態になった場合に給付される。死亡前に該当する状態だった場合は遡って請求できる |
| 介護保険金(民間) | 要介護状態になった際に給付される民間介護保険。契約内容を確認のうえ請求する |
民間保険の請求手順
生命保険協会では、相続人が故人の保険加入状況を一括照会できる「生命保険契約照会制度」を提供しています。照会手数料(1回3,000円)がかかりますが、加入している保険会社が不明な場合や、複数の保険に加入していた可能性がある場合に非常に有効です。生命保険協会(0570-079-777)に問い合わせましょう。
多くの保険契約では請求権の時効は3年です。故人が長期入院していた場合、死亡後の慌ただしさの中で請求を忘れてしまうケースが多発しています。保険証券が見つかったら、すぐに各保険会社に連絡することを優先してください。
よくある疑問(Q&A)
精算チェックリスト
医療費・介護費に関する精算・請求をもれなく進めるためのチェックリストです。印刷してご活用ください。
- 病院の会計窓口で死亡月の入院費を確認・精算する
- 差額ベッド代の妥当性(同意書の有無)を確認する
- 介護施設の最終月利用料・前払い金の精算を行う
- 入居一時金の返還額を施設に確認・請求する
- 訪問介護・デイサービス事業者に最終請求額を確認する
- 医療器具・介護用品レンタルの返却・精算を行う
- 施設・病院内の私物・荷物を期日までに引き取る
- 入院・通院の領収書を全期間分収集し、高額療養費の対象月を確認する
- 高額療養費の申請書を健康保険窓口(国保・健保・後期高齢者医療)に提出する
- 介護サービスの利用明細を収集し、高額介護サービス費の対象月を確認する
- 高額介護サービス費の申請書を市区町村の介護保険担当課に提出する
- 医療費・介護費の合算額が年間上限を超えていないか確認する(高額医療・高額介護合算療養費)
- 健康保険の葬祭費・埋葬料の申請を行う(別途手続き)
- 保険証券を探し、加入保険会社・証券番号・受取人を確認する
- 生命保険契約照会制度で未発見の保険がないか確認する(0570-079-777)
- 各保険会社に死亡連絡を行い、請求必要書類を確認する
- 病院に診断書・入院証明書の発行を依頼する
- 入院給付金・手術給付金・死亡保険金の請求書類を提出する
- 死亡年1月1日〜死亡日の医療費領収書を全てまとめ、合計額を計算する
- 準確定申告で医療費控除を申告する(死亡日から4ヶ月以内)
- 未払い医療費・介護費を相続税の債務控除として税理士に伝える
- 還付金の振込記録・領収書を相続財産の記録として保管する
高額療養費・高額介護サービス費・合算療養費の時効は2年、民間保険の給付金請求期限は3年(契約によって異なる)、準確定申告は死亡日から4ヶ月以内です。どの手続きも期限を過ぎると受け取れなくなるため、早めの行動が重要です。
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