【初心者向け】もう110万円を戻さなくてもいい? 相続時精算課税の仕組みと注意点をやさしく解説


「110万円ルール」が変わった? まず結論からお伝えします

「贈与は年110万円まで非課税」という話、一度は耳にしたことがあると思います。
これは暦年贈与という制度のルールです。毎年1月1日から12月31日の間に受け取った贈与のうち、110万円を超えた部分に贈与税がかかる、というものです。

一方、相続時精算課税制度は、これとはまったく仕組みが異なる別の制度です。
2024年(令和6年)の税制改正によって、この制度に年110万円の基礎控除が新たに加わり、「以前より使いやすくなった」と注目されています。

この記事のポイント(先にまとめます)
  • 相続時精算課税とは、生前に最大2,500万円まで贈与税ゼロで財産を渡せる制度
  • 2024年改正で、年間110万円の基礎控除が追加された(この110万円は相続時にも加算されない)
  • 一度選択すると取り消しができないため、慎重な判断が必要
  • 相続時に精算(合算)される仕組みなので、節税効果は状況によって異なる

そもそも「相続時精算課税」って何ですか?

相続時精算課税制度とは、ひとことで言うと「生前に財産を贈与し、相続が発生したときに改めて税額を計算し直す仕組み」です。

少し難しく聞こえるかもしれませんが、流れを順に見ていけば理解しやすいです。

制度の基本的な仕組み

項目 内容
対象者 贈与者(あげる人):60歳以上の父母・祖父母
受贈者(もらう人):18歳以上の子・孫
特別控除 累計2,500万円まで贈与税がかからない
基礎控除(2024年改正) 年間110万円(相続時の加算対象外)
税率 2,500万円を超えた部分は一律20%
相続時の扱い 贈与した財産を相続財産に持ち戻して相続税を計算。すでに払った贈与税は相続税から差し引く
選択方式 一度選択すると暦年贈与には戻れない(取消不可)

たとえば、父から息子へ3,000万円を贈与したとします。
相続時精算課税を選択している場合、まず2,500万円の特別控除を使い、残り500万円に20%の贈与税(100万円)がかかります。
その後、父が亡くなったとき、この3,000万円は相続財産に加算して相続税を計算し直します。そして払い済みの贈与税100万円は相続税から差し引かれます。

ポイント:「贈与税を後払いにする仕組み」ではなく、「贈与も相続も一体で税負担を計算する仕組み」だとイメージしてみてください。

改正前と改正後、何がどう変わったの?

2024年1月から施行された税制改正では、相続時精算課税に関して大きな変化がありました。
改正前と改正後を比べてみましょう。

比較項目 改正前(〜2023年) 改正後(2024年〜)
年間の基礎控除 なし 年110万円を新設
相続時の加算 贈与した全額を加算 年110万円以内は加算されない
少額贈与の申告 少額でも申告が必要なケースがあった 年110万円以内なら申告不要
特別控除(累計) 2,500万円(変更なし) 2,500万円(変更なし)

この改正により、「毎年110万円まで非課税で贈与でき、しかも相続時に加算もされない」という使い方が可能になりました。
これが「110万円を戻さなくていい」という意味です。

注意点:この年110万円の基礎控除は、暦年贈与の基礎控除(110万円)とは別物です。相続時精算課税を選んだ贈与者からの贈与については、暦年課税の基礎控除は使えなくなります。混同しないようにご注意ください。

相続時精算課税を選ぶとどうなる? 具体的に見てみましょう

制度の説明だけでは少しわかりにくいかもしれないので、具体的なケースで確認してみましょう。

ケース①:毎年110万円ずつ贈与するだけのパターン

父(65歳)が息子(40歳)に対して、相続時精算課税を選択し、毎年110万円を贈与し続けたとします。

  • 贈与税:毎年ゼロ(基礎控除内のため)
  • 申告:不要
  • 相続時の加算:なし(年110万円以内は加算対象外)
  • 10年間続けた場合:計1,100万円を非課税・加算なしで移転できる

この使い方は「コツコツ型」として非常にシンプルです。特別控除(2,500万円)は使わず、基礎控除だけを活用するかたちです。

ケース②:まとまった財産を一度に渡すパターン

父(70歳)が娘(45歳)へ住宅取得資金として2,000万円を贈与したとします。

  • 特別控除:2,500万円の枠内なので贈与税ゼロ
  • ただし相続時には、この2,000万円が相続財産に加算される
  • 相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)次第で、相続税がかかる可能性がある
ポイント:「今すぐ大きなお金を子どもに渡したい」という場合に使いやすい制度です。ただし、相続時の課税額がどう変わるか、事前のシミュレーションが大切です。

「精算」ってどういうこと? 相続のときに何が起きる?

相続時精算課税という名前の「精算」という部分が、この制度を理解するうえで最も重要です。

相続が発生したときの計算の流れ

STEP 内容
相続財産(遺産)を確定する
相続時精算課税で贈与した財産(年110万円超の部分)を加算する
合計額をもとに相続税を計算する
計算した相続税から、すでに払った贈与税を差し引く
差し引いた結果がプラスなら相続税を追加納付、マイナスなら還付

つまり、贈与した時点の財産の評価額で相続財産に加算されます。
ここが重要なポイントで、贈与時より相続時に財産の価値が上がっていても、加算されるのは贈与時の評価額です。

不動産の贈与で差が出ることがあります

たとえば、贈与時に評価額1,000万円だった土地が、相続発生時に1,500万円に値上がりしていたとします。
この場合、相続財産に加算されるのは1,000万円(贈与時の評価額)です。
値上がり分500万円には相続税がかかりません。これが相続時精算課税の「得をするケース」のひとつです。


相続時精算課税を使うと得をするケース・損をするケース

この制度は万能ではありません。使うと有利な場面と、逆に不利になりやすい場面を整理しておきましょう。

向いているケース

  • 将来値上がりしそうな財産を贈与したいとき(贈与時の低い評価額で相続財産に算入できる)
  • 収益物件(アパート等)を早めに子に渡したいとき(以後の家賃収入が子の財産になり、相続財産の増加を抑えられる)
  • 相続財産がそもそも少なく、相続税がかからないと見込まれるとき(精算時の税負担がほぼない)
  • 毎年110万円ずつコツコツ移転したいとき(2024年改正後は特に使いやすい)

向いていないケース(注意が必要な場面)

  • 贈与した財産の価値が下がった場合:贈与時の評価額で加算されるため、相続時より高い額で計算されることになる
  • 暦年贈与を長年続けてきた人:暦年課税に戻ることができないため、選択後は暦年贈与の非課税枠(110万円)が使えなくなる
  • 小規模宅地等の特例を使いたいとき:相続時精算課税で贈与した土地は、原則として小規模宅地等の特例が使えない
  • 相続税の課税対象になる見込みの財産が多いとき:節税効果が出にくい

使う前に必ず確認! 注意点・落とし穴まとめ

相続時精算課税は便利な制度ですが、使い方を誤ると思わぬ負担につながることがあります。
以下の注意点をしっかりご確認ください。

① 一度選ぶと取り消しできない

相続時精算課税は、選択した年の翌年3月15日までに届出書を税務署に提出する必要があります。
そして、一度選択すると取り消しができません
特定の贈与者(父・母・祖父母)ごとに選択するので、たとえば父からの贈与だけ選択した場合、父からの贈与については以後ずっと相続時精算課税が適用されます。

② 暦年贈与との併用はできない(同一人物からの贈与)

相続時精算課税を選択した相手(贈与者)からの贈与については、暦年課税の基礎控除(110万円)は適用されません。
「父からは相続時精算課税、母からは暦年贈与」という組み合わせは可能ですが、同じ人物からの贈与に両方を使うことはできません。

③ 相続放棄しても贈与財産の持ち戻しは続く

相続が発生した際に「相続放棄」をしても、相続時精算課税で受け取った財産は相続税の計算に含まれます
「相続を放棄したから関係ない」とはならない点に注意が必要です。

④ 贈与財産の価値が下落したときのリスク

贈与時の評価額で相続財産に加算されるため、その後価値が大きく下がった場合(株式・不動産など)、
「実際にはもう価値がないのに、高い評価で相続税を払う」という事態になることがあります。
なお、2024年の改正で、土地については災害等による価値下落を一定程度考慮できる措置が設けられましたが、すべてのケースに当てはまるわけではありません。

⑤ 申告が必要な場合を見落とさない

年110万円の基礎控除以内の贈与は申告不要ですが、基礎控除を超えた贈与や特別控除を使う場合は贈与税の申告が必要です。
「どうせゼロ円だから」と申告を忘れると、ペナルティが生じることがあります。


暦年課税と相続時精算課税、どちらを選べばいい?

この制度を使うかどうかの判断は、個人の財産状況・家族構成・将来の相続見通しによって大きく変わります。
一般的な目安として、以下の考え方を参考にしてみてください。

状況 向いている制度 理由
少額をコツコツ長期間贈与したい 暦年課税 or 相続時精算課税(改正後) どちらも年110万円まで非課税。ただし改正後は相続時精算課税でも加算なし
まとまった資産を早めに移転したい 相続時精算課税 2,500万円まで贈与税ゼロで移転できる
将来値上がりする財産がある 相続時精算課税 贈与時の評価額で精算されるため、値上がり分に課税されない
相続税の基礎控除を大幅に超えそう 慎重に判断が必要 精算時に相続税がかかるため、節税効果が限定的になる場合がある
贈与者が高齢で早期死亡のリスクがある 要注意 暦年贈与の「生前3〜7年以内の贈与の持ち戻し」ルールとの関係も検討が必要
2024年の改正でこう変わりました:従来の暦年贈与では、亡くなる前の一定期間(改正後は最長7年前まで)の贈与が相続財産に持ち戻されます。一方、相続時精算課税の年110万円基礎控除分はこの「持ち戻し」の対象外。長期間にわたる計画的な資産移転には、相続時精算課税の基礎控除の活用が注目されています。

手続きはどうする? 申告の流れ

相続時精算課税を利用するには、一定の手続きが必要です。難しくはありませんが、期限を守ることが大切です。

はじめて選択するとき

STEP 手続き内容
「相続時精算課税選択届出書」を準備する(税務署または国税庁HPで入手可能)
贈与税の申告書(第一表・第二表)を合わせて作成する
贈与を受けた翌年の2月1日〜3月15日の間に税務署へ提出する
贈与税がある場合は3月15日までに納税する

2年目以降の贈与のとき

年110万円以内であれば申告不要です。
年110万円を超える贈与があった場合は、翌年の贈与税申告の際に相続時精算課税として申告します(届出書の再提出は不要)。

相続発生時

贈与者が亡くなったら、相続税の申告の中で相続時精算課税の贈与財産を合算して計算します。
この申告は相続発生を知った日の翌日から10か月以内が期限です。

申告や計算のミスは、追徴課税や延滞税につながることがあります。税理士や専門家への相談を早めにご検討ください。

まとめ:相続時精算課税は"道具"。使いこなすには専門家と一緒に

ここまで読んでいただきありがとうございます。最後に、この記事でお伝えしたことを整理します。

記事のまとめ
  • 相続時精算課税は、生前に最大2,500万円まで贈与税ゼロで財産を移転できる制度
  • 2024年の改正で、年間110万円の基礎控除が新設され、相続時の持ち戻しもない
  • 一度選択すると取り消せないため、事前のシミュレーションと慎重な判断が重要
  • 「向いているケース」と「向いていないケース」があり、万能ではない
  • 相続財産の種類・規模・家族構成によって有利不利が大きく変わる
  • 申告期限や手続きの漏れには注意が必要

相続時精算課税は、うまく活用すれば生前に財産を計画的に移転するための強力な道具になります。
ただし、「節税になるかどうか」は、その方の財産の内容や将来の相続税の見込みによって大きく変わります。

「うちは使えるのかな?」「暦年贈与との違いがよくわからない」など、少しでも疑問を感じたら、ぜひ専門家にご相談ください。
自分たちだけで判断して後悔するより、早めに相談することで選択肢が広がります。


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