【特集】相続・贈与で必ず出てくる「事業承継税制」とは?
事業承継税制とは「非上場株式等を後継者に贈与・相続した際の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する制度」です。中小企業の経営者が高齢化する中で、後継者への株式承継にかかる多額の税負担を軽減することを目的に設けられました。特例措置(2027年12月末までの申請が必要)では贈与税・相続税の全額猶予が可能です。ただし要件が複雑・取消リスクがある・中小企業者に限定されるため、必ず税理士・専門家と連携して慎重に検討することが必要です。
目次
事業承継税制とは:制度の全体像
事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度)とは、中小企業の後継者が先代経営者から非上場株式等を取得した場合に、本来かかるはずの贈与税・相続税の全部または一部の納税を猶予し、一定の要件を満たした場合に免除する制度です(租税特別措置法70条の7等)。
中小企業の株式は評価額が高額になることがあり、後継者が相続・贈与で株式を取得した場合に多額の税金が発生し、納税のために会社の株式を売却せざるを得ない・会社を存続できないという事態を防ぐための制度です。
| 対象 | 中小企業(非上場会社)の株式・持分。上場企業の株式は対象外 |
|---|---|
| 税の取り扱い | 贈与・相続した株式に係る贈与税・相続税の納税を「猶予」する。要件を満たし続けることで最終的に「免除」される(猶予中は担保提供が必要) |
| 免除のタイミング |
・後継者が死亡した場合 ・後継者が次の後継者に株式を贈与した場合 ・一定期間経過後に申請した場合(特例措置)等 |
| 主管機関 | 都道府県知事(認定申請)・税務署(税務申告) |
| 制度の種類 | 一般措置(恒久的な制度)と特例措置(2027年12月末まで申請可能な時限制度)の2つがある |
一般措置と特例措置の違い、特例措置の要件・対象者・申請スケジュール、猶予取消のリスク、個人版事業承継税制との違い、相続・遺言書との組み合わせ方、活用フローまで解説しています。
一般措置と特例措置:2つの制度の違い
事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2つがあります。特例措置は2018年の税制改正で創設された時限的な制度で、一般措置より大幅に優遇されています。
| 比較項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 猶予割合 |
贈与税:納税猶予割合100% 相続税:課税価格の80%に対応する税額を猶予 |
贈与税・相続税ともに納税猶予割合100% |
| 対象株数 | 発行済議決権株式総数の3分の2まで | 発行済議決権株式総数の全株 |
| 後継者の数 | 1人のみ | 最大3人まで |
| 雇用維持要件 | 5年間平均で雇用の80%を維持(下回ると猶予取消) | 実質的に緩和(満たせない場合も理由書提出で継続できる場合がある) |
| 申請期限 | 恒久的(期限なし) | 2024年4月1日〜2027年12月31日までに特例承継計画を申請 |
| 利用のしやすさ | 要件が厳格で使いにくい | 大幅に要件が緩和されて使いやすい |
特例措置を利用するには「特例承継計画」を2027年12月31日までに都道府県に提出する必要があります。計画の策定・提出には数か月かかることがあります。「まだ時間がある」と思っているうちに期限が来てしまうため、早急に税理士・専門家に相談してください。
特例措置の要件:誰が・何を・どうすれば使えるか
特例措置を利用するには会社・先代経営者・後継者それぞれに要件があります。
| 対象となる 会社の要件 |
・中小企業者であること(中小企業基本法上の中小企業者。業種によって資本金・従業員数の基準が異なる) ・非上場会社であること ・資産管理会社でないこと(不動産・有価証券の保有を主たる事業とする会社は原則対象外) ・風俗営業会社等ではないこと |
|---|---|
| 先代経営者 (贈与者・ 被相続人) の要件 |
・会社の代表者であった(または代表者である)こと ・贈与時に代表者を退任していること(贈与の場合) ・同族関係者と合わせて総議決権数の50%超を保有していたこと ・同族内で最も多くの議決権を保有していたこと |
| 後継者 (受贈者・ 相続人) の要件 |
・会社の代表者であること(申請時点で就任済みであること) ・20歳以上であること(贈与の場合。相続・遺贈の場合は不問) ・同族関係者と合わせて総議決権数の50%超を保有すること ・同族内で最多の議決権を保有すること ・最大3人まで(特例措置) |
「資産管理会社」に注意
資産管理会社は原則として事業承継税制の対象外です。会社の総資産に占める特定資産(有価証券・不動産・現金等)の割合が70%以上の場合は資産管理会社と判定されます。不動産賃貸業・資産の運用が主な会社は事前に確認が必要です。
特例措置の申請スケジュール:2027年12月末の期限
特例措置を利用するための申請・手続きの流れとスケジュールを確認します。
| STEP1 特例承継計画の 策定・提出 (2027年12月末まで) |
認定経営革新等支援機関(税理士・中小企業診断士・金融機関等)の指導・助言を受けながら「特例承継計画」を作成し、都道府県知事に提出する。計画には現状の事業・後継者・承継の時期・目標等を記載する。この申請の期限が2027年12月31日 |
|---|---|
| STEP2 贈与・相続の 実行 |
計画に基づいて先代経営者から後継者への株式の贈与または相続を実行する。贈与の場合は先代が代表を退任する必要がある |
| STEP3 都道府県知事の 認定申請 |
贈与・相続が発生した後に都道府県知事に「認定申請」を行う。認定書が交付されることで税務申告の際に添付できる |
| STEP4 税務申告・ 納税猶予の適用 |
贈与税・相続税の申告期限内(贈与の翌年3月15日・相続開始から10か月)に認定書を添付した申告書を提出し、担保提供を行って納税猶予の適用を受ける |
| STEP5 継続届出 (毎年または3年ごと) |
猶予期間中は毎年(贈与税)または3年ごと(相続税)に都道府県知事・税務署に継続届出が必要。届出を怠ると猶予が取り消される |
特例承継計画は実際の株式の贈与・相続より先に提出しておくことができます。「まだ贈与する予定はないが将来的に使いたい」という場合も、2027年12月末までに計画を提出しておくことで将来の選択肢を確保できます。
猶予が取り消されるケース:最大のリスク
事業承継税制の最大のリスクが「猶予の取消」です。取り消されると猶予されていた税金に利子税を加えた金額を一括納付しなければなりません。
| 株式の譲渡・ 贈与 |
後継者が株式の全部または一部を第三者に譲渡・贈与した場合は、その割合に応じて猶予が取り消される(次の後継者への承継は除く) |
|---|---|
| 代表者を 退任した |
後継者が代表取締役を退任した場合(一定の理由による退任は除く) |
| 継続届出の 未提出 |
毎年または3年ごとの継続届出を提出し忘れた場合は即座に猶予取消になる。実務上最も多い取消原因の一つ |
| 会社が解散・ 倒産した |
会社が解散・清算・破産した場合(ただし一定の場合は取消にならない) |
| 資産管理会社に 該当した |
猶予期間中に資産管理会社に該当するようになった場合 |
毎年・3年ごとの届出は税理士に管理を任せることが最善策です。自社で管理する場合はカレンダーへの登録・リマインダーの設定等を徹底してください。届出を忘れた場合の影響は深刻です。
個人版事業承継税制との違い
事業承継税制には法人向け(非上場株式等)と個人事業主向け(個人版)の2種類があります。
| 比較項目 | 法人版 (非上場株式等) |
個人版 (個人事業者) |
|---|---|---|
| 対象 | 非上場会社の株式・持分 | 個人事業主の事業用資産(土地・建物・機械等) |
| 対象となる 税の猶予割合 |
100%(特例措置) | 100% |
| 申請期限 | 特例:2027年12月末 | 2028年12月末までに個人事業承継計画を提出 |
| 向いている 事業形態 |
株式会社・合同会社等の法人 | 個人事業主(農業・医業・小売業等) |
| 主な要件 | 後継者が代表者であること等 | 後継者が事業を継続すること・特定事業用資産を保有し続けること等 |
農家・医院・小売店等の個人事業主でも、事業用資産(農地・医療機器・店舗建物等)を後継者に贈与・相続する際に個人版事業承継税制が活用できます。法人版との違いを税理士と確認してください。
事業承継税制を使う前に考えるべきこと
事業承継税制は非常に強力な制度ですが、使う前に慎重に検討すべき点があります。
- 本当に後継者に継がせるのか:猶予取消のリスクがあるため、「継がせるかもしれない」という段階での適用は危険。会社を売却(M&A)する可能性が高い場合は不向き
- 猶予取消になった場合の資金を確保できるか:万が一の取消時に一括で納付できる財源があるか確認する
- 小規模宅地等の特例との選択:相続の場合、小規模宅地等の特例(自社株の敷地等への適用)と事業承継税制はどちらが有利かを比較する
- 継続的な管理コスト:毎年の届出・税理士への依頼費用が発生する。長期にわたるコストを試算する
- 会社の株価引き下げとの組み合わせ:事業承継税制を使う前に株価を引き下げる(退職金の支給・増資等)ことで猶予される税額自体を減らすことも有効
株価が低い会社・相続税が少額で済む場合・M&Aを検討している場合は、事業承継税制より株価引き下げ・暦年贈与・持株会の活用の方が適していることがあります。制度の利用ありきで考えず、税理士と総合的な判断を行ってください。
相続・遺言書との組み合わせ方
事業承継税制は相続・遺言書と適切に組み合わせることで最大の効果を発揮します。
| 遺言書で 株式の行き先を 明確に指定する |
事業承継税制を活用する際は、遺言書で「株式を後継者に相続させる」と明記することが重要です。遺産分割協議で争いが生じると相続税の申告期限(10か月)を超えて事業承継税制の申請が困難になる場合があります |
|---|---|
| 遺留分対策を 忘れずに |
後継者に株式を集中させると他の相続人(兄弟姉妹等)の遺留分を侵害する可能性があります。遺留分侵害額請求が来ると事業承継に支障が生じる場合があります。民法上の「遺留分に関する民法の特例(除外合意・固定合意)」も組み合わせて検討してください |
| 生命保険で 他の相続人への 代償資金を確保 |
後継者が株式を全部相続する代わりに、他の相続人には生命保険金(死亡保険金)で相応の額を渡す設計が有効。保険金は遺産分割の対象外のため争いになりにくい |
| 家族信託との 組み合わせ |
先代が認知症になった後に贈与ができなくなるリスクに備えて、家族信託で株式の議決権だけを先に後継者に移しておく方法も検討できます(株式信託) |
事業承継税制の活用フロー:準備から申請まで
| Phase1 現状把握 |
・会社の株価計算(純資産価額方式・類似業種比準価額方式等) ・会社が中小企業に該当するか・資産管理会社に該当しないか確認 ・後継者候補の確定・後継者の意思確認 ・現在の株主構成・議決権比率の確認 |
|---|---|
| Phase2 計画策定 |
・認定経営革新等支援機関(税理士等)と連携して「特例承継計画」を策定 ・都道府県に計画を提出(2027年12月末まで) ・株価引き下げ策の検討(退職金・増資・持株会等) ・遺言書・家族信託との連携設計 |
| Phase3 実行 |
・先代が代表を退任 ・後継者に株式を贈与または相続で承継 ・都道府県知事に認定申請 ・贈与税・相続税の申告と担保提供 |
| Phase4 維持管理 |
・毎年(または3年ごと)の継続届出 ・要件変更がないか定期的に確認 ・次の承継(後継者から次の後継者へ)の検討 |
よくある疑問(Q&A)
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