【専門家が徹底解説】障害者扶養信託(特定贈与信託)とは?仕組み・メリット・税制優遇・注意点まで完全ガイド


「親亡き後」が心配な方へ。まず知っておきたいこと

「自分が先に逝ったあと、障害のある子どもの生活はどうなるのだろう」——そんな不安を抱えている親御さんは、少なくないと思います。

障害のある方の生活を長期的に支えるためには、財産を安全に管理し、継続して生活費を届ける仕組みが必要です。そのための制度のひとつが、本記事でご紹介する障害者扶養信託(特定贈与信託)です。

「信託」という言葉を聞いて、難しそう・富裕層向けのものというイメージを持つ方もいるかもしれません。でも、この制度は障害のあるご家族をお持ちの方が「将来の生活費を確実に届ける」ための、実用的な備えとして設計されています。

この記事でわかること
  • 障害者扶養信託(特定贈与信託)の仕組みと対象者
  • 最大6,000万円の贈与税非課税という税制優遇の内容
  • 信託できる財産の種類と利用の流れ
  • メリット・デメリット・注意点
  • 家族信託・成年後見との違いと使い分け

障害者扶養信託(特定贈与信託)とは何ですか?

障害者扶養信託(特定贈与信託)とは、障害のある方(特定障害者)のご家族や支援者が、信託銀行などに財産を預け、障害者の生活費・医療費として定期的に交付していく制度です。正式名称は「特定障害者扶養信託」といい、信託業界では「特定贈与信託」という名称で広く知られています。

3人の登場人物で成り立ちます

役割 誰がなれる? 内容
委託者 個人(親族・篤志家) 財産を信託銀行に預ける人。ご両親が亡くなった後も信託は継続します。複数人で共同して信託することも可能です
受託者 信託銀行・信託会社 財産を管理・運用し、受益者に定期的にお金を届ける機関。個人(家族)は受託者になれません
受益者 特定障害者 信託財産から生活費・医療費の交付を受ける方。この方の死亡をもって信託は終了します

重要なのは、「受託者は必ず信託銀行・信託会社であること」です。家族が自分で管理する「家族信託」とはここが根本的に異なります(詳しくは後述)。

制度のポイントをひとことで言うと:親御さんが生前に信託銀行へ財産を預けておけば、ご自身が亡くなった後も、信託銀行が引き続き障害のあるお子さんへ生活費を届け続けてくれる仕組みです。

誰が使える制度?対象となる障害者の範囲

この制度を利用できる受益者(お金を受け取る側)は、法律で定められた「特定障害者」に限られます。
特定障害者は「特別障害者」と「特別障害者以外の特定障害者」の2種類に分かれており、非課税の限度額が異なります

特別障害者(非課税限度額:6,000万円)

以下のいずれかに該当する方が対象です。
  • 精神上の障害により、常に物事を判断する能力を欠く状態にある方(成年被後見人)
  • 児童相談所・知的障害者更生相談所・精神保健福祉センターまたは精神保健指定医の判定により、重度の知的障害者とされた方
  • 身体障害者手帳に1級・2級の障害として記載されている方
  • 精神障害者保健福祉手帳に障害等級1級として記載されている方
  • 戦傷病者手帳に一定の障害程度として記載されている方
  • 原子爆弾被爆者として厚生労働大臣の認定を受けている方
  • 常に就床を要し、複雑な介護が必要な状態で、上記に準ずるとして福祉事務所長等の認定を受けている方

特別障害者以外の特定障害者(非課税限度額:3,000万円)

以下のいずれかに該当する方が対象です。
  • 児童相談所・知的障害者更生相談所・精神保健福祉センターまたは精神保健指定医の判定により、中軽度の知的障害者とされた方
  • 精神障害者保健福祉手帳に障害等級2級・3級として記載されている精神障害者の方
  • 精神または身体に障害のある65歳以上の方で、上記に準ずるものとして市町村長等の認定を受けている方
注意点:障害の程度によって利用できる非課税限度額が大きく異なります。また、障害者の行為能力の状態によっては、成年後見人・保佐人・補助人・任意後見人が手続きに関わる必要が生じる場合があります。ご自身がどちらに該当するか、まず専門家にご確認いただくことをおすすめします。

どんな財産を信託できる?何ができて何ができない?

特定贈与信託で預けられる財産には、一定の制限があります。
この制度は「定期的に現金を交付する」ことが前提のため、収益を生み出すか、換金できる財産でなければなりません

信託できる財産の種類

財産の種類 補足・注意点
金銭(現金・預貯金) 最も基本的な信託財産。ほぼすべての信託銀行で取り扱い可能
有価証券(株式・債券等) 換金性が高く収益を生む財産として認められる。取り扱いは信託銀行によって異なる
不動産(収益物件など) 賃料収入が見込める収益不動産は対象になり得るが、自宅用不動産だけでは対象外になる場合がある。信託報酬を賄える収益があることが条件

信託財産の使い道は限られます

信託財産から交付されるお金は、受益者の生活費・医療費・療養費などに限定されます。
株式の購入や生活に不要な消費など、「資産形成」を目的とした使い方はできません。

信託銀行ごとに取り扱いが異なります:金銭しか受け付けない信託銀行もあれば、不動産や有価証券に対応しているところもあります。また、設定時の手数料や管理報酬にも幅があるため、複数の金融機関に相談して比較することをおすすめします。

最大6,000万円が非課税に!税制上のメリットを詳しく

この制度の最大の特長が、贈与税の非課税措置です。通常、年間110万円を超える贈与には贈与税がかかりますが、特定贈与信託を利用すると、障害の程度に応じて最大6,000万円まで贈与税がかかりません

区分 非課税限度額 通常の贈与との比較
特別障害者(重度の心身障害者等) 6,000万円 通常は年110万円超に贈与税。
約54年分の非課税枠に相当
特別障害者以外(中軽度の知的障害者・精神障害者2〜3級等) 3,000万円 通常は年110万円超に贈与税。
約27年分の非課税枠に相当

相続税はどうなる?

委託者(親御さん)が亡くなった場合でも、特定贈与信託の信託財産は委託者の相続財産に含まれません
また、通常であれば相続開始前の一定期間内(最長7年)の贈与は相続財産に加算されますが、特定贈与信託で信託した財産はこの「持ち戻し」の対象にもなりません

税制上の優遇まとめ
  • 贈与税:特別障害者は6,000万円まで非課税、それ以外の特定障害者は3,000万円まで非課税
  • 相続税:信託財産は相続財産に含まれない
  • 相続前贈与の持ち戻しルール:対象外(相続財産に加算されない)
  • 非課税枠を超えた部分:贈与税・相続税の対象になる点には注意が必要

非課税を受けるための手続き

贈与税の非課税措置を受けるには、信託契約を締結する日までに「障害者非課税信託申告書」を税務署に提出する必要があります。
この申告書は受益者(または代理人)が作成し、受託者(信託銀行等)を経由して、受益者の住所地の所轄税務署へ提出します。提出が遅れると非課税の適用が受けられないため、忘れずに手続きを行いましょう。


利用の流れ:信託契約から財産交付まで

実際にこの制度を使うには、どのような手順を踏むのでしょうか。大まかな流れを確認しておきましょう。

STEP 内容
信託銀行・信託会社に相談する
複数の金融機関に問い合わせ、取り扱い財産の種類・手数料・管理報酬などを比較検討します
障害者非課税信託申告書を提出する
受益者(または代理人)が申告書を作成し、受託者経由で税務署へ提出。信託契約締結日までに提出が必要
特定障害者扶養信託契約を締結する
委託者と受託者(信託銀行等)の間で契約を結びます。このとき交付方法・頻度・金額などを決定します
財産を信託する(信託銀行へ預ける)
金銭・有価証券・不動産などを信託銀行等に移転します
定期的な金銭交付が始まる
信託銀行等が契約に従い、受益者(特定障害者)に生活費・医療費を定期的に交付します。信託財産の状況は定期的に委託者・受益者へ報告されます
委託者が亡くなっても継続する
親御さんが亡くなった後も、受益者(障害のある方)が亡くなるまで信託は継続されます
受益者が亡くなったとき終了する
信託が終了し、残余の財産は受益者の相続人等に交付されます。あらかじめ障害者福祉団体等への寄付を指定しておくこともできます

この制度の強みとメリットをまとめると

特定贈与信託には、他の財産管理・贈与の方法にはない、独自の強みがいくつかあります。

① 親御さんが亡くなった後も生活費が届き続ける

最大のメリットはここです。委託者(親御さん)が亡くなっても、信託銀行が引き続き財産を管理・運用し、受益者(障害のある方)に定期的にお金を届けます。「親亡き後」の生活費の不安を、制度として解消できます

② 信託銀行が管理するので安全・確実

財産は信託銀行等が管理するため、紛失・横領・使い込みのリスクがありません。また、信託財産は受託者固有の財産とは分別管理されるため、信託銀行が倒産しても信託財産は保護されます

③ 大きな贈与税の非課税枠を使える

通常の生前贈与では年110万円が非課税の上限です。しかしこの制度を使えば、特別障害者は6,000万円、それ以外の特定障害者は3,000万円まで一度に贈与税なしで財産を移転できます。

④ 相続財産への加算がない

通常の贈与では、亡くなる前の一定期間(最長7年間)の贈与が相続財産に「持ち戻し」されます。しかし特定贈与信託の財産はこのルールの対象外です。相続税の計算を気にせず、生前に財産を移しておくことができます

⑤ 残余財産の使い道を指定できる

受益者が亡くなった際に残った信託財産について、障害者福祉団体や社会福祉施設への寄付を事前に指定しておくことができます。支援の気持ちを未来につなぐこともできる制度です。


知っておきたい注意点・デメリット

この制度には多くのメリットがある一方、いくつかの注意点もあります。事前にしっかり把握しておきましょう。

① 受託者は信託銀行等に限られる

家族信託とは異なり、受託者は必ず信託業の免許を持つ信託銀行・信託会社でなければなりません。家族が直接管理することはできず、管理報酬が継続的にかかります。

② 信託財産の使い道が制限される

交付されたお金は生活費・医療費・療養費に限定されます。レジャー費や趣味の費用、資産形成を目的とした使い方はできません。受益者本人の生活を支える目的に特化した制度であることを理解しておく必要があります。

③ 収益を生まない財産は信託できないことがある

自宅用の不動産単体など、収益を生まない財産は受託者が引き受けてくれないケースがあります。信託報酬を賄うだけの収益が見込めないと判断されるためです。

④ 信託期間は受益者の死亡まで

信託期間は受益者(特定障害者)が亡くなるまでと法律で定められています。途中でやめたり、期間を変更したりすることはできません。

⑤ 遺留分への影響に注意

特定贈与信託の設定により、他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があります。たとえば、多額の財産を特定贈与信託に移した場合、他の兄弟姉妹から遺留分侵害額請求がなされるリスクがあります。設定前に必ず遺留分の問題がないか確認が必要です。

⑥ 所得税がかかることがある

信託財産の運用で生じた収益は受益者の所得になるため、所得の種類に応じて所得税が課税されることがあります。贈与税が非課税でも、運用益に関しては税負担が生じる点を覚えておきましょう。

実務上のポイント:特定贈与信託は「設定して終わり」ではなく、信託銀行との継続的な関係が前提の制度です。管理報酬の水準・交付頻度・報告内容などを契約前に十分に確認することが重要です。

家族信託・成年後見との違いは?どれを選べばよいか

障害のある方の財産管理・生活支援には、特定贈与信託のほかに「家族信託」「成年後見制度」という選択肢もあります。
それぞれの違いを整理することで、ご自身の状況に合った方法を選びやすくなります。

比較項目 特定贈与信託 家族信託 成年後見制度
受託者・管理者 信託銀行・信託会社(必須) 信頼できる家族・親族 家庭裁判所が選任(専門家が多い)
贈与税の非課税 最大6,000万円 原則なし(委託者=受益者なら贈与税不要) なし
管理の柔軟性 低い(生活費等に限定) 高い(契約内容による) 低い(裁判所の監督下)
委託者死亡後の継続 継続(受益者の死まで) 契約内容による 終了(相続人が手続き)
身上監護(施設入所等の契約) 対応不可 対応不可 対応可能
ランニングコスト 信託報酬(継続的) 家族が受託者なら無報酬も可 報酬が月額発生(専門家の場合)
向いているケース 障害者の生活費を長期・確実に届けたい 柔軟な財産管理・認知症対策 本人保護・詐欺被害防止・身上監護も必要
実務上の視点から:特定贈与信託・家族信託・成年後見は、それぞれ目的が異なるため「どれかひとつが正解」ではありません。障害のある方の状況によっては、特定贈与信託で財産を移転しつつ、成年後見制度で身上監護を確保するという組み合わせが有効なケースもあります。

まとめ:「親亡き後」の備えは早めに、専門家と一緒に

ここまで読んでいただきありがとうございます。最後に、この記事のポイントを整理します。

記事のまとめ
  • 障害者扶養信託(特定贈与信託)は、障害のある方の生活費・医療費を長期にわたって届けるための制度
  • 受託者は必ず信託銀行・信託会社。家族が直接管理することはできない
  • 特別障害者は最大6,000万円、それ以外の特定障害者は最大3,000万円まで贈与税が非課税
  • 相続財産への加算(持ち戻し)もなく、相続対策としても有効
  • 信託期間は受益者の死亡まで継続するため、親御さんが亡くなった後も財産が守られる
  • 使い道の制限・遺留分への影響・所得税などの注意点もある
  • 家族信託・成年後見との組み合わせで、より手厚い備えになるケースもある

「うちの子は対象になるのかな?」「いくら信託すればいいの?」「家族信託とどう違う?」——こうした疑問は、ご家族の状況によって答えが変わります。ひとりで抱え込まず、まず専門家に相談することが、最善の備えへの第一歩です。

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