戸籍収集が一発で終わる手順:広域交付の使い方と不足しやすい戸籍

相続における戸籍収集:なぜ難しいのか

相続手続きで最も時間がかかり、多くの方が「難しい」と感じるのが戸籍謄本の収集です。なぜなら「被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍」を集めなければならないのに、転籍・戸籍の改製(法改正による作り直し)等の理由で戸籍が複数の市区町村に分散していることが多いからです。

「一か所で全部もらえるわけではない」「どこに何通あるかわからない」「1通取るたびに次の請求先がわかる構造になっている」——これが戸籍収集を難しくする本質的な理由です。しかし令和6年3月1日から始まった「広域交付制度」によって、この状況が大きく改善されました。

💡 この記事でわかること:
集めるべき戸籍の4種類の整理、広域交付制度の仕組みと使い方、広域交付で取れない戸籍と補完方法、転籍が多い場合の進め方、不足しやすい戸籍のパターンと対策、郵送申請との組み合わせ、収集後の法定相続情報一覧図への活用まで解説しています。

集めるべき戸籍の全体像:4種類の戸籍を整理する

相続手続きで必要な戸籍には複数の種類があり、それぞれ異なる名称・内容・手数料が設定されています。

種類 内容 手数料
戸籍謄本
(現在の戸籍)
現在有効な戸籍の記載事項を全部写したもの。相続人(配偶者・子等)の現状確認に使う。被相続人の死亡が記載されているものも含む 450円/通
除籍謄本
(全員除かれた戸籍)
全員が除籍(死亡・転籍等)になった戸籍。被相続人が亡くなった事実・過去の家族構成を確認するために必要 750円/通
改製原戸籍
(かいせいはらこせき)
法改正等で戸籍の様式が変わった際に作り直す前の古い戸籍。「はらこ」と読む場合もある。特に昭和・大正・明治時代の記録が含まれる 750円/通
戸籍の附票 その戸籍に在籍中の住所の変遷が記録されている書類。相続登記で相続人の住所を証明する際に必要になることがある 300円程度
(市区町村による)
「出生から死亡まで連続した戸籍」が必要な理由:

相続人を確定するためには、被相続人に「前婚の子」「認知した子」「養子」等がいないことを証明する必要があります。現在の戸籍だけでは過去の家族関係がわからないため、出生時から死亡時まで全ての戸籍をつなぎ合わせて確認する必要があります。これが「連続した戸籍」が必要な理由です。

広域交付制度とは:令和6年3月からの大きな変化

令和6年3月1日から施行された「戸籍の広域交付制度」は、戸籍収集の実務を根本的に変えた画期的な制度です。

📋 広域交付制度の概要 令和6年3月1日施行
何ができるか 本籍地以外の市区町村の窓口で、他の市区町村の戸籍謄本・除籍謄本等を取得できる制度。例えば東京都内の市区町村窓口で、被相続人の本籍地が北海道・大阪・沖縄にある戸籍をまとめて取得できる
申請できる場所 全国の市区町村の窓口(本庁舎または一定の出張所等)。法務局(登記所)の窓口でも申請可能
申請できる人 本人が窓口に来ることが原則。代理人申請は原則不可(本人が来所できない場合は郵送等の別手段が必要)
取得できる戸籍の範囲 ・戸籍謄本(現在の戸籍)
・除籍謄本
・改製原戸籍(一部対象外の場合あり。要確認)
・コンピューター化されていない古い戸籍は対象外の場合がある
手数料 通常の請求と同じ(戸籍謄本450円・除籍謄本750円等)
従来との違い 従来:各本籍地の市区町村に個別に請求(窓口来訪または郵送)
広域交付:最寄りの1か所の窓口でまとめて取得できる
広域交付制度の最大のメリット:
被相続人が北海道・大阪・東京と転籍を繰り返していた場合でも、現在の住所地の最寄り窓口1か所で全部の戸籍をまとめて取得できます。従来は各都市に郵送請求を繰り返し、1〜2か月かかることもあった戸籍収集が、最短で1日で完了する可能性があります。

広域交付の使い方:当日の手順と持ち物

1
事前に被相続人の情報を整理する 氏名・生年月日・最後の本籍地(わかれば)・転籍前の本籍地(わかれば)をメモしておく。通帳・権利証・年賀状等に本籍地の記載がある場合がある。わからなくても窓口で相談できる
2
持ち物を準備する ①本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証・パスポート等)②申請者と被相続人の関係がわかるもの(戸籍謄本等・窓口で確認を)③手数料(現金)④被相続人の情報メモ
3
最寄りの市区町村窓口(または法務局)に来庁する 窓口の受付時間(多くは午前9時〜午後5時、午後4時頃までに来庁推奨)を事前に確認する。「戸籍の広域交付の申請をしたい」と窓口担当者に伝える
4
申請書を記入・提出する 窓口で「戸籍・除籍謄本等の広域交付申請書」を受け取り記入する。被相続人の氏名・生年月日・本籍地等を記入する。「出生から死亡までの戸籍が必要」という旨を担当者に伝えると、必要な戸籍を案内してくれることがある
5
戸籍謄本等の発行を待つ 他の市区町村の戸籍はオンライン照会後に発行される。即日発行できる場合もあるが、1〜数時間かかる場合や「後日取りに来てください」という場合もある。混雑状況や市区町村によって異なるため事前確認が理想的
⚠️ 広域交付は「本人来庁」が原則です。代理人は利用できません。
広域交付制度は申請者本人が窓口に来庁することが要件です。家族が代理で申請することはできません(同じ被相続人について相続人が申請する場合は本人の戸籍の範囲で対応可能ですが、他の戸籍の場合は要確認)。本人が来庁できない場合は郵送申請を活用してください(Section 7参照)。

広域交付で「取れない戸籍」:補完方法

広域交付制度は非常に便利ですが、全ての戸籍が広域交付で取れるわけではありません。取れない戸籍については別途対応が必要です。

⚠️ 広域交付で取得できない(または困難な)戸籍と対応策
コンピューター化
されていない古い戸籍
明治・大正・昭和初期の戸籍はコンピューター化されておらず、広域交付の対象外。本籍地の市区町村に郵送申請する必要がある。これが最も多い「取れない戸籍」のケース
戸籍の附票 広域交付の対象外。本籍地の市区町村に個別申請が必要
外国に本籍を
移した記録
外国に在住していた期間の戸籍は日本の市区町村では取得できない。在外日本公館(大使館・領事館)等への問い合わせが必要
廃棄・焼失した戸籍 戦災・災害等で焼失した戸籍は取得できない。「不存在証明」を代わりに取得して対応することがある
実務上の最善策:「広域交付+郵送申請の並行進行」です:
広域交付で取れる戸籍はその場で取得し、取れない古い戸籍(コンピューター未化分)は本籍地の市区町村に郵送申請を並行して送ることで、全体の収集期間を最短化できます(Section 7参照)。

転籍が多い場合の効率的な進め方

転籍(本籍地の変更)が多い被相続人の戸籍を集める場合は、「広域交付制度の登場前後」で対応方法が大きく変わりました。

広域交付を使った場合の流れ

① 最寄りの市区町村窓口(または法務局)に来庁して広域交付を申請する
② 「被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍が必要」と伝える
コンピューター化された戸籍・除籍はその場で取得できる
④ コンピューター化されていない古い戸籍は別途本籍地への郵送申請が必要
⑤ 取得した戸籍を確認して「つながっているか」を検証する(Section 6参照)

「本籍地がわからない」場合の対処法

被相続人の本籍地がわからない場合は以下の手順で確認できます:

住民票(除票)を取得する:住所地の市区町村で被相続人の住民票の除票を取得すると「本籍地・筆頭者名」が記載されている
② 通帳・権利証・古い書類等に本籍地が記載されていることがある
③ 家族(親族)に確認する

不足しやすい戸籍:現場でよく起きるミスと対策

「戸籍を全部集めたと思っていたが差し戻しになった」——これは相続実務でよく起きる問題です。不足しやすい戸籍のパターンを把握して事前に対策しましょう。

⚠️ 不足しやすい戸籍のパターン
パターン①
改製原戸籍の
取り漏れ
法改正による戸籍の改製(作り直し)が複数回あった場合、「現在の戸籍」「一つ前の改製原戸籍」「さらに前の改製原戸籍」と複数の改製原戸籍が存在する。古い改製原戸籍を取り忘れることが多い。窓口で「全ての改製原戸籍が必要」と明示する
パターン②
転籍前後の
つなぎ目の漏れ
A市からB市に転籍した場合、A市の「転籍後(除籍)」の戸籍が必要。この「転籍を示す除籍謄本」を取り忘れると戸籍がつながらない。取得した戸籍を時系列に並べて「どこかにギャップがないか」を確認する
パターン③
婚姻前の
出生地の戸籍
婚姻前に親の戸籍に記載されていた時期の戸籍が必要。被相続人が結婚して新しい戸籍を作った場合、それ以前の「親の戸籍(分籍前)」も収集対象になることがある
パターン④
離婚・再婚・
養子縁組の記録
被相続人に離婚歴・再婚歴・養子縁組歴がある場合、それらが記録された戸籍が全て必要。「前婚の子」や「養子」の存在を証明・否定するために必要
パターン⑤
相続人側の
戸籍の確認不足
被相続人の戸籍ばかりに注意が向き、相続人(配偶者・子等)の現在の戸籍謄本を忘れることがある。相続人の戸籍は「最新のもの」が必要な点に注意

「戸籍がつながっているか」を確認する方法

取得した戸籍を時系列に並べて、以下を確認してください:

被相続人の「出生の記載」が含まれる最も古い戸籍があるか
各戸籍の「前後のつながり」が確認できるか(転籍・改製・婚姻等の事由とその前後の本籍地が対応しているか)
被相続人の「死亡の記載」がある最新の戸籍(除籍謄本)があるか

わからない場合は窓口担当者に「これで出生から死亡まで揃っているか確認してほしい」と依頼することができます。

郵送申請との組み合わせ:並行して進めるコツ

広域交付で取れる戸籍と取れない戸籍がある場合、「広域交付で取得→その日のうちに不足分を郵送申請」という並行進行が最短コースです。

郵送申請の手順

① 本籍地の市区町村の公式ウェブサイトで「戸籍謄本の郵送申請」の方法を確認する
② 申請書(各市区町村の様式または便箋に必要事項を記載)を準備する
③ 手数料分の「定額小為替」を郵便局で購入する(通常の切手や現金は不可)
④ 本人確認書類のコピーを同封する
⑤ 返信用封筒(切手貼付・送付先住所記載)を同封する
⑥ 本籍地の市区町村の担当課(市民課・住民課等)宛に送付する

到着から発送まで:概ね1〜2週間程度(市区町村の混雑状況・郵便の遅延等による)
「広域交付当日に郵送申請も投函」が時間短縮の鉄則:
広域交付の窓口から帰宅後(または当日のうちに)に、不足している古い戸籍の郵送申請を郵便ポストに投函してください。広域交付と郵送申請を並行して進めることで、全体の収集期間を大幅に短縮できます。

法定相続情報一覧図への活用:収集後にやること

戸籍謄本の収集が完了したら、次は「法定相続情報一覧図」の申請に進むことをおすすめします。

📋 収集完了後のおすすめの活用手順
STEP1
戸籍の内容を
確認・整理する
収集した戸籍を時系列に並べて「出生から死亡まで連続しているか」を確認する。相続人の一覧を書き出す(氏名・続柄・生年月日・住所)
STEP2
法定相続情報
一覧図を作成する
法務局のウェブサイトにある様式・記載例を参考に「法定相続情報一覧図」の下書きを作成する。相続関係を図で示したものが必要
STEP3
法務局に申請して
「写し」を取得する
収集した戸籍謄本一式と一覧図の下書きを法務局に申請する(全国どの法務局でも可)。無料で複数枚の「認証写し」が発行される。発行まで概ね1〜2週間
STEP4
各手続きに活用する
発行された写しを銀行・法務局・年金事務所等に提出することで、戸籍謄本一式の提出を省略できる。複数枚あれば複数の金融機関に同時申請が可能

よくある疑問(Q&A)

Q. 広域交付で戸籍を申請しましたが「コンピューター化されていないので取れない」と言われました。どうすればいいですか?
その市区町村の本籍地に郵送申請をしてください。窓口でコンピューター未化の戸籍の「本籍地と市区町村名」を確認して、その市区町村のウェブサイトで郵送申請の方法を確認します。定額小為替(手数料分)を郵便局で購入して本人確認書類のコピー・申請書・返信用封筒と一緒に郵送してください。なお広域交付の窓口で「どの市区町村に郵送すればいいか」を確認してから帰宅することをおすすめします。
Q. 広域交付の窓口では何時頃までに行けばいいですか?
午後3時〜4時頃までの来庁を目安にしてください。他の市区町村の戸籍はオンライン照会後に発行されるため、処理に時間がかかることがあります。閉庁時間(午後5時)ギリギリに来庁すると当日中に受け取れない場合があります。午前中の早い時間帯が最もスムーズに処理してもらいやすいです。来庁予定の市区町村に「広域交付を申請したいのですが、午後何時までに来れば当日中に受け取れますか?」と事前に電話確認するのが確実です。
Q. 相続人が代理で広域交付の申請をすることはできますか?
原則として本人(申請者)が来庁することが必要です。広域交付制度は「本人申請」が要件となっており、家族等の代理人による申請は原則として認められていません。ただし申請者自身の戸籍については代理人申請が可能な場合があります。本人が来庁できない場合は、各本籍地の市区町村に郵送申請を行うか、行政書士に「職務上請求」での収集代行を依頼する方法があります。
Q. 転籍が多くて本籍地がいくつあるかわかりません。広域交付でまとめて取れますか?
広域交付では「コンピューター化された戸籍」については複数の本籍地のものをまとめて取得できます。ただし取得できる範囲は申請者がどの戸籍を申請するかを特定できる範囲に限られます。「出生から死亡まで連続した戸籍が必要」と窓口担当者に伝えることで、取得すべき戸籍を案内してもらえることがあります。また取得した戸籍を確認しながら「次の戸籍はどこにあるか」を遡っていくことで、全ての本籍地を特定できます。

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