銀行口座の相続手続き:凍結のタイミング/必要書類/払戻しの実務
銀行口座の相続は、「手続きの流れ」さえ押さえれば、必要以上に不安にならなくて大丈夫です。
結論から言うと、ポイントは3つだけです。
① 口座が止まる(凍結される)タイミングを理解する/② 必要書類を“最初から”揃える/③ 払戻しまでの実務(提出先・時間・段取り)を先に決める。
この記事では、相続が初めての方でも上から読めば動けるように、「凍結のタイミング」「必要書類」「払戻しの実務」をやさしく整理します。
目次
1. 口座はいつ凍結される?「止まる瞬間」を先に知る
多くの方が一番困るのは、「いつから引き出せなくなるの?」という点です。
基本的には、銀行が“死亡の事実”を把握したタイミングで、口座の入出金が停止します。
ここが大事
・死亡届を出しただけで、金融機関に自動で伝わるわけではありません。
・銀行に死亡連絡を入れると、原則として入出金(振込・引落しを含む)が止まります。
・「止まると困るから…」と慌てて動くと、かえって手続きがややこしくなることがあります。
とはいえ、連絡を先延ばしにすれば良い、という話でもありません。大切なのは、連絡前に“止まって困る支払い”を洗い出し、代替手段を用意することです(後ほど具体策をまとめます)。
2. まず全体像:銀行口座の相続手続き(最短ルート)
銀行の相続手続きは、どの金融機関でも概ね同じ流れです。やることを「順番」で見れば、迷いにくくなります。
STEP1:取引銀行を把握する(口座の洗い出し)
- 通帳・キャッシュカード・ネットバンクの情報・郵送物(残高通知など)を確認
- 複数行にある場合は、一覧にしてメモ(銀行名/支店/口座種類)
STEP2:死亡の連絡(凍結の入口)
- 支店窓口・電話・Webなど、銀行の案内に従って連絡
- 同時に「相続手続きの窓口(相続センター等)」と必要書類を確認
STEP3:相続人確定と、分け方の根拠を整える
- 遺言がある 遺言書(必要なら検認等)を軸に進める
- 遺言がない 遺産分割協議書(または銀行所定の用紙)で分け方を決める
STEP4:書類提出 → 銀行が確認 → 払戻し(または名義変更)
- 確認に数週間かかることがあるため、早めの着手が安心です
- 払戻し後は、相続人へ振込・相続人名義へ移し替え等の形になります
3. 必要書類:遺言あり/協議書あり/協議書なしで分かれる
必要書類は、ざっくり言うと「誰が相続人か」「誰が受け取るか」を証明する書類です。
金融機関により細部は異なりますが、まずは“基本セット”を押さえると手戻りが減ります。
| パターン | よく求められる書類の例 | ポイント |
|---|---|---|
| 遺言がある |
・遺言書(自筆等は検認済のもの等) ・被相続人の戸籍(死亡が分かるもの等) ・受け取る人の戸籍/印鑑証明など |
「遺言執行者がいるか」で必要書類が変わることがあります |
| 遺言なし+協議書あり |
・遺産分割協議書(相続人全員の署名・押印) ・被相続人の戸籍(出生から死亡までの連続) ・相続人全員の戸籍 ・相続人全員の印鑑証明 |
最も一般的。戸籍の連続性と相続人漏れに注意 |
| 遺言なし+協議書なし |
・被相続人の戸籍(出生から死亡までの連続) ・相続人全員の戸籍 ・相続人全員の印鑑証明 ・銀行所定の相続手続依頼書(相続人全員の署名・押印)など |
「全員の合意」を別の書式で示すイメージです |
書類集めをラクにする工夫
戸籍の束の代わりに使える「法定相続情報一覧図の写し」を用意すると、複数の銀行・役所での提出が軽くなることがあります(使える場面が広いのが特徴です)。
4. 払戻しの実務:銀行で実際に求められること
書類が揃ったら、次は銀行の“実務”です。ここでつまずきやすいポイントを先に知っておくと安心です。
(1)窓口は「支店」ではなく「相続専用窓口」のことがある
- 最近は、相続手続きを本部・相続センターで集中処理する銀行が増えています
- 最初の連絡時に「提出方法(窓口/郵送/予約制)」を確認しておくとスムーズです
(2)“通帳の記帳”ができなくなるタイミングに注意
- 銀行によっては、相続書類を提出すると通帳記帳ができなくなる旨の案内があります
- 必要があれば、提出前に取引履歴を整理しておくと後がラクです
(3)払戻しは「相続人へ振込」になることが多い
- 現金払いではなく、相続人名義口座への振込で受け取るケースが多いです
- 受取人が複数いる場合は、分配方法(誰にいくら)を明確にします
(4)所要期間の目安を先に聞く
- 書類に不備がなければ進みますが、確認に一定の時間がかかることがあります
- 「何が揃ったら開始」「いつ頃払戻し」まで、窓口で確認しておくと不安が減ります
5. 凍結中の支払いはどうする?公共料金・葬儀費用・当面資金
凍結で困りやすいのは、「公共料金の引落し」「家賃」「施設費」「葬儀費用」などです。対処は大きく3パターンです。
(A)引落し・振込先を切り替える(いちばん確実)
- 公共料金、家賃、保険料、施設費などは、別口座へ変更できるものが多いです
- 止まってから慌てるより、早めに“支払いの代替”を作ると安心です
(B)金融機関に相談する(葬儀費用等の緊急対応)
- 銀行によっては、葬儀費用等が必要な場合の相談窓口を案内しています
- 「領収書がある」「相続人が誰か明確」など事情により対応が変わることがあります
(C)遺産分割前でも、一定額を単独で引き出せる制度を検討する
遺産分割がまだ終わっていない段階でも、相続人が単独で一定額の払戻しを受けられる制度があります。
目安の計算は次のとおりです(上限があります)。
単独で払戻しできる額(目安)
相続開始時の預金額 × 1/3 × 払戻しを求める相続人の法定相続分
※ただし、同一金融機関からの払戻しは上限が設けられています。
「当面の生活費や葬儀費用が心配」という場合は、先に制度の対象になるかを金融機関へ確認すると安心です。
6. つまずきポイント:よくある手戻り・トラブル予防
最後に、現場でよくある“手戻り”をまとめます。ここを避けるだけで、精神的な負担がかなり減ります。
(1)相続人が漏れていた(戸籍の取り直し)
- 相続人漏れは、銀行手続きだけでなく遺産分割そのものにも影響します
- 被相続人の戸籍は「出生から死亡まで連続」が基本です
(2)遺産分割協議書の内容が曖昧だった
- 「預金は長男が相続」だけだと、口座が特定できず止まることがあります
- 銀行名・支店・口座種別・口座番号など、特定できる情報を入れるとスムーズです
(3)凍結前の引出しが原因で、後から揉めた
- 「葬儀費用に使ったつもり」でも、相続人間の理解がズレるとトラブルになりやすいです
- やむを得ず立替える場合は、領収書・メモ・共有(説明)を残すだけでも安心感が変わります
(4)複数銀行があるのに、手続き順を決めていなかった
- まずは「生活に直結する引落しがある口座」から優先すると分かりやすいです
- 同時並行で進める場合も、書類の束が増えるので整理が大切です
7. すぐ動けるチェックリスト(今日やること)
- 支払い 口座凍結で止まると困る支払い(光熱費・家賃・施設費など)をリスト化した
- 口座 銀行名・支店・口座種類・通帳等を洗い出した
- 連絡 各銀行の「相続窓口」と提出方法(窓口/郵送/予約)を確認した
- 戸籍 被相続人の戸籍(出生から死亡まで)と相続人の戸籍を揃える段取りを決めた
- 分け方 遺言の有無を確認し、協議書が必要か見通しを立てた
- 当面資金 葬儀費用・当面の生活費が心配なら、金融機関へ相談/制度の対象確認をする
銀行口座の相続は、流れと必要書類が見えると一気に安心できます。
「相続人が多い」「遺言がある」「不動産や他の手続きも並行」など、複雑になりそうなときほど、最初に全体設計をしてから進めると手戻りが減ります。
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