特許権・著作権・商標権の相続税はいくら?|知的財産権の評価方法と申告の注意点

この記事の結論

特許権・著作権・商標権といった知的財産権は「ライセンス料・印税等の収入を生む権利」として相続税の課税対象になります。ただし評価方法は不動産や預金と大きく異なり、「年間の使用料収入」をベースに保護期間・残存期間・業種によって定められた倍率を掛けて計算します。収入が全くない知的財産権は評価額がゼロになる場合もあります。最も重要な注意点は「価値がないと思って申告しなかった知的財産権を税務調査で指摘される」ケースが実務上少なくない点です。専門家(税理士・弁理士)と連携した評価・申告が不可欠です。

知的財産権が相続税の課税対象になる仕組み

特許権・著作権・商標権等の知的財産権は財産的価値を持つ相続財産として相続税の課税対象になります(相続税法2条・11条の2)。

📋 知的財産権が相続税の対象になる根拠と基本的な考え方
課税の根拠 知的財産権はライセンス料・印税・実施料等の収入を生む財産的権利です。相続税法上は「財産」に該当し、財産評価基本通達に定められた方法で評価して申告します
評価の基本的
な考え方
知的財産権の評価は「その権利が将来生む収入(使用料等)の現在価値」を算定するアプローチが基本です。収入がない権利は価値が低く・収入が多い権利は価値が高くなります
申告が必要な
ケース
・ライセンス料・印税等の収入がある知的財産権
・自社で実施して収益を上げている特許権
・収入がなくても「残存保護期間がある存続中の権利」は申告が必要な場合がある
申告不要に
なりうるケース
・既に保護期間が満了・消滅した権利
・ライセンス収入も自社実施もなく残存価値がほぼゼロと評価される権利
※ ただし「申告不要」と自己判断せず必ず税理士に確認する
💡 この記事でわかること:
特許権・著作権・商標権それぞれの相続税評価の計算方法、財産評価基本通達の具体的な計算式、価値判断の注意点、税理士・弁理士の役割、申告漏れのリスクまで解説しています。計算式はあくまで概要であり、実際の評価・申告は必ず税理士に依頼してください。

3つの権利の評価方法の違い:特許・著作・商標を比較

3種類の知的財産権は財産評価基本通達によってそれぞれ異なる評価方法が定められています。

📋 特許権
根拠:財産評価基本通達138条
方法:年間実施料×業種別評価倍率
特徴:残存存続期間・業種によって倍率が異なる。自社実施か他者へのライセンスかでも評価が変わる
📚 著作権
根拠:財産評価基本通達148条・149条
方法:年間使用料収入×0.5×評価倍率
特徴:著作権の種類・将来の保護期間・業種によって倍率が変わる。収入がない著作権は評価額がゼロになることも
™️ 商標権
根拠:財産評価基本通達138条準用
方法:特許権に準じた評価。のれんとの関係で評価が複雑になる場合がある
特徴:使用継続中の商標は高く評価される傾向。更新可能なため残存期間の概念が特許と異なる
比較項目 特許権 著作権 商標権
根拠条文
(財産評価基本通達)
138条 148条・149条 138条準用
保護期間の
影響
大きい
(残存期間で倍率変化)
大きい
(死後70年で倍率変化)
中程度
(更新可能で継続できる)
収入ゼロの場合の
評価額
原則ゼロ 原則ゼロ 状況による
(ブランド価値考慮)
評価の複雑さ 中 高 高
(のれんとの関係)

特許権の相続税評価:財産評価基本通達138条の計算式

特許権の相続税評価は財産評価基本通達138条に基づきます。

特許権の評価額(基本式)
年間実施料収入の額 × 業種別・残存期間別の評価倍率
※ 実際の計算式・倍率表は財産評価基本通達138条・付表(評価倍率表)を参照してください。
※ 計算には専門的な判断が必要なため必ず税理士に依頼してください。
📋 特許権の評価:実務上の重要ポイント
「年間実施料
収入」の計算
過去の実績から年間平均の実施料(ライセンス料)を計算します。死亡直前3年間の平均が一般的に使われますが、収入が不安定な場合は別の計算方法を取ることもあります。税理士と協議して適切な期間・金額を決定します
自社実施の
特許権
自社で特許を実施して製品を販売している場合(ライセンス料を受け取っていない場合)は、同種の特許の実施料相場を参考に「想定実施料」を計算します。業種・市場での特許の重要度によって異なります
残存期間と
評価倍率
特許権は出願から20年で消滅します。残存期間が長いほど評価倍率が高くなります。財産評価基本通達の付表に残存期間(年数)別の倍率が定められています
複数特許が
ある場合
特許権が複数件ある場合は各件ごとに個別評価します。全件の合計が相続税申告における特許権の評価額になります。件数が多い場合は弁理士と連携して各特許の収益への貢献度を整理してから評価します
✅ 「特許がいくつあるか」と「いくら収入があるか」を最初に整理する:
J-PlatPatで特許件数を確認し、過去の確定申告書・法人決算書から実施料収入の金額を確認してから税理士に情報提供することで、評価額の算定がスムーズになります。

著作権の相続税評価:財産評価基本通達148条・149条の計算式

著作権の相続税評価は財産評価基本通達148条(著作権)・149条(著作隣接権)に基づきます。

著作権の評価額(基本式)
年間平均印税収入(使用料収入)× 0.5 × 評価倍率
※ 著作権の種類・残存保護期間・業種によって倍率が異なります。
※ 実際の計算は財産評価基本通達148条・付表を参照し、税理士に依頼してください。
📋 著作権の評価:実務上の重要ポイント
「×0.5」の
意味
著作権の評価では年間収入に0.5(50%)を掛けます。これは著作物の維持・管理・創作に関わるコストや、将来の不確実性を考慮した調整係数です
年間平均収入の
算定
直前3年間の年間平均印税・使用料収入を使います。収入の変動が大きい場合は3年以外の期間を採用することもあります。確定申告書・著作権管理団体からの支払明細書等から確認します
評価倍率の
決まり方
著作権の残存保護期間(著作者の死後70年から相続開始時点までの残り年数)と業種によって評価倍率が変わります。財産評価基本通達の付表に倍率が定められています
著作隣接権の
評価(149条)
実演家の権利・レコード製作者の権利・放送事業者の権利等の「著作隣接権」は財産評価基本通達149条で評価します。基本的な計算式は著作権と同様ですが、保護期間・倍率が異なります

著作権の評価倍率表(財産評価基本通達148条付表・概要)

著作者の死後の残存年数によって評価倍率が異なります(下表はあくまで概要であり、正確な倍率は財産評価基本通達の付表を確認してください)。

残存保護期間(年数) 評価倍率の方向性 備考
残存年数が多い(50〜70年程度) 比較的高い倍率 若くして亡くなった著作者の作品等
残存年数が中程度(20〜50年程度) 中程度の倍率 一般的な著作者の場合が多い
残存年数が少ない(10年未満) 比較的低い倍率 高齢で亡くなった著作者の場合
⚠️ 倍率表の数値は財産評価基本通達の付表を必ず確認してください。
上表はあくまで方向性を示したものです。正確な倍率・計算方法は財産評価基本通達148条の付表および国税庁の情報を参照し、税理士に計算を依頼してください。

商標権の相続税評価:実務上の取り扱い

商標権の相続税評価は特許権(財産評価基本通達138条)に準じた方法で評価しますが、商標権特有の考慮事項があります。

📋 商標権の評価:特許権と異なる点と注意事項
存続期間の
「更新可能」
という特殊性
特許権は出願から20年で消滅しますが、商標権は10年ごとに更新することで半永久的に存続できます。このため「残存期間」の概念が特許と異なり、更新意思がある場合の評価が難しくなります
ライセンス収入
がある場合
商標のライセンス料収入がある場合は特許権に準じた方法(年間収入×評価倍率)で評価します。ただし更新可能なため残存期間の設定を税理士と協議する必要があります
「のれん」と
商標権の関係
個人事業主のブランド商標の場合、商標権の価値は事業の「のれん(営業権)」と密接に関連します。のれんと商標権を分離して評価するか・一体として評価するかは税理士の判断が必要です
収入がない
商標権
ライセンス収入もなく自社の商品・サービスに使用しているだけの商標権は評価が難しいですが、事業収益に貢献しているブランドとして評価額がゼロにはならない場合があります
💡 商標権の評価は「のれん」評価と合わせて税理士に依頼することをおすすめします:
個人事業主が亡くなった場合、商標権・のれん・営業権は一体的に評価されることがあります。事業の性質・市場での競争優位性・収益力等を踏まえた複合的な評価が必要なため、知的財産権に詳しい税理士に依頼することが重要です。

「価値がない」と判断する前に確認すべきこと

「たいした特許ではないから価値はない」「趣味で書いた小説だから著作権に価値はない」という判断は正しくない場合があります。申告の要否を自己判断する前に以下を確認してください。

  • 過去3年間に使用料・印税・ライセンス料の収入はあったか:少額でも継続的な収入がある権利は評価額がゼロにはなりにくい
  • 特許・商標を使って商品を製造・販売していたか:自社実施の場合、収入がなくてもその貢献度から評価額が算定される場合がある
  • ライセンス契約が現在も存続しているか:ライセンス先が使用料を支払い続けている場合は収入がある権利として評価される
  • 残存保護期間はどれくらいあるか:保護期間が十分残っている権利は将来の収益可能性として評価額に反映される
  • 被相続人が確定申告書・決算書で知的財産権を資産として計上していたか:すでに帳簿価額が存在する場合はゼロ評価は難しい
❗ 「申告しなくていい」と自己判断することが最も危険です。
知的財産権の評価は専門的な判断が必要であり、相続人が「価値なし」と判断した権利を税務調査で指摘されるケースがあります。「念のため確認する」という姿勢で全ての知的財産権の情報を税理士に提供してから申告の要否を判断してもらうことが最も安全です。

知的財産権の評価における専門家の役割

知的財産権の相続税評価では税理士と弁理士が連携することが最も重要です。

📋 税理士・弁理士・行政書士のそれぞれの役割
税理士 ・財産評価基本通達に基づいた評価額の算定
・相続税申告書の作成・提出
・相続税額のシミュレーション
・他の財産(不動産・預金等)との合算評価
・税務調査への対応
弁理士 ・特許権・商標権等の権利状態の確認(J-PlatPatの照会・特許庁への問い合わせ)
・権利の残存期間・収益貢献度の分析
・特許庁への移転登録申請の代行
・税理士への技術的な情報提供・連携
行政書士 ・戸籍謄本の収集
・遺産分割協議書の作成(知的財産権の記載を含む)
・税理士・弁理士との連携・取りまとめ
・相続手続き全体のコーディネート
✅ 「相続専門の税理士+知的財産に詳しい弁理士」の連携が最善:
知的財産権の相続税評価は一般の税理士では対応が難しい場合があります。知的財産権に関わる相続を扱った経験のある税理士・または弁理士と連携できる税理士を選ぶことが、正確な申告・税務調査リスクの低減につながります。ハートリンクグループでは税理士との連携体制があります。

申告の注意点:申告漏れ・過少申告のリスク

知的財産権の相続税申告では特有のリスクがあります。事前に把握した上で対策を講じてください。

リスクの種類 具体的な内容 対策
申告漏れ 知的財産権の存在を把握していなかったり「価値がない」と判断して申告から漏らした場合。税務調査でJ-PlatPatの情報・特許庁の登録情報・収益情報と照合されて発覚することがある J-PlatPat・書面・確定申告書を全て確認して全ての知的財産権をリスト化して税理士に提供する
過少申告 評価額を実態より低く申告した場合。評価方法・倍率の適用を誤った場合や、収入の期間設定が不適切だった場合に生じる 財産評価基本通達に忠実に計算する。弁理士から収益情報・権利状態の情報提供を受けて税理士が評価する
未収使用料の
見落とし
死亡日時点で受け取っていない印税・ライセンス料(未収使用料)も相続財産として申告が必要 出版社・著作権管理団体・ライセンシーから死亡日時点の未払い使用料の金額を確認して申告に含める
外国知的財産権の
漏れ
外国で登録した特許権・商標権も相続財産に含まれる。J-PlatPatでは検索できないため見落としやすい 被相続人の事業書類・弁理士との連絡内容から外国特許・外国商標の有無を確認する
💡 税務調査では特許庁の登録情報・J-PlatPat・収益情報が照合されます:
相続税の税務調査では被相続人名義の特許・商標等について特許庁の公開情報と照合することが可能です。申告から漏れていた知的財産権が発覚した場合は追徴課税・延滞税・過少申告加算税等の対象になる場合があります。

よくある疑問(Q&A)

Q. 特許権のライセンス収入が年間50万円程度です。相続税評価額はどのくらいになりますか?
年間50万円の収入をベースに評価倍率を掛けた金額が評価額になりますが、倍率は残存存続期間・業種によって異なります。例えば残存期間が10〜15年の特許権に適用される倍率が仮に5〜7倍程度であれば評価額は250〜350万円程度になります。ただしこれはあくまで概算であり、実際の計算は財産評価基本通達138条の付表に定められた倍率を用いた正確な計算が必要です。必ず税理士に依頼してください。
Q. 父の著作物(小説)から印税が年間数万円入っていました。相続税申告は必要ですか?
年間収入が少額であっても著作権は相続財産に含まれるため、相続税申告全体の文脈で考える必要があります。年間数万円の印税を基にした著作権の評価額は財産評価基本通達の計算式によれば数十〜百万円程度になることが多いです。ただし他の財産(不動産・預金等)と合算した遺産総額が基礎控除(3,000万円+600万円×相続人数)を超えない場合は相続税の申告自体が不要です。まず遺産総額を全て把握した上で相続税申告が必要かどうかを税理士に確認してください。
Q. 商標権の評価で「のれん」との関係が複雑だと言われました。どう対応すればいいですか?
個人事業主の商標権・のれんの評価は専門的な判断が必要なため、知的財産権の評価経験がある税理士・弁理士に依頼することが最善です。のれんの評価は財産評価基本通達165条〜167条に基づきます。商標権との関係では「商標権の価値がのれんの一部として既に計上されている」か「別々に計上すべきか」が論点になります。事業の収益力・商標のブランド力・競合との差別化要因等を分析した上で評価方法を決定します。税理士への情報提供として事業の損益推移・業界での商標の認知度等をまとめて渡すことで評価がスムーズになります。
Q. 相続した特許権・著作権を後で売却した場合、また税金がかかりますか?
はい、売却益には譲渡所得税がかかります。特許権・著作権等の知的財産権の売却益は「譲渡所得」として所得税・住民税の対象になります。計算式は「売却価格-取得費(相続時の評価額)-譲渡費用」です。相続時の評価額が取得費になるため、相続税申告での評価額を正確に記録しておくことが後の譲渡所得税の計算でも重要になります。また特定の知的財産権の譲渡には優遇税制が設けられている場合もあるため、売却前に税理士に確認してください。

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