【証券口座の相続手続き】株・投資信託・NISAがある場合の進め方と注意点を専門家がやさしく解説
目次
証券口座の相続:銀行口座とここが違う
親や配偶者が亡くなった後、証券口座(株・投資信託・NISA等)の相続手続きは銀行口座と似た部分もありますが、「評価額が日々変動する」「NISA口座の特別な取り扱い」「移管か売却かの選択」等、株式・投資信託特有の論点があります。
特に注意が必要なのは次の3点です。
① 価格変動リスク:手続き完了まで時間がかかる間も株価・基準価額は変動する。手続き中に価格が大きく動いた場合の対応を想定しておく必要がある
② NISAの非課税枠は相続人には引き継がれない:亡くなった方のNISA口座は課税口座に移管される。NISA口座のまま相続人に引き継ぐことはできない
③ 「移管」か「換金(売却)」かを選択する必要がある:相続人が証券口座を持っていれば証券を「そのまま移管」できるが、口座がない場合は先に口座を開設するか、売却して現金で受け取ることになる
証券口座の相続手続きの全体の流れ、必要書類、株式・投資信託・NISAそれぞれの扱い方、相続人に証券口座がない場合の対応、会社が不明な場合の「ほふり」照会、相続税評価の方法、税申告との関係まで解説しています。
証券口座の相続手続き:全体の流れ
必要書類:証券会社に提出するもの
証券会社に提出する必要書類は銀行と概ね共通ですが、証券会社独自の書類が加わる点が特徴です。
| 証券会社所定 の書類 |
・相続手続依頼書(証券会社の指定様式) ・移管依頼書または換金請求書(手続きの方向によって変わる) ・相続人の証券口座情報(移管先口座の番号等) |
|---|---|
| 戸籍関係書類 |
・被相続人の戸籍謄本(出生〜死亡の連続したもの) ・相続人全員の戸籍謄本(最新のもの) または法定相続情報一覧図の写し(戸籍謄本の代替として使用可能) |
| 協議・合意書類 |
・遺産分割協議書(相続人全員の実印で署名・押印) または遺言書(公正証書遺言または検認済みの自筆証書遺言) |
| 印鑑証明書 |
・相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書がある場合) ※ 発行から3か月以内等の条件がある場合があるため提出直前に取得するのが安全 |
| その他 |
・取得する相続人の本人確認書類 ・通帳(換金の場合の振込先口座情報) |
株式の相続:移管・売却の選択肢と税務
相続した株式は「そのまま引き継ぐ(移管)」か「売却して現金で受け取る(換金)」かを選択します。
移管(証券を引き継ぐ)の場合
移管後の取得単価:
相続で取得した株式の「取得単価(税務上の取得費)」は、原則として相続時の相続税評価額ではなく、被相続人が取得した当時の購入価格(取得費)を引き継ぎます。被相続人の購入価格が不明な場合は「売却金額の5%」を取得費とみなします(概算取得費)。
換金(売却して現金で受け取る)の場合
税務上の注意点(換金の場合):
相続時の株価(相続税評価額)より高い価格で売却した場合、その差額部分に譲渡所得税(約20%)が発生します。逆に相続税評価額より低い価格で売却した場合は「譲渡損失」となり、確定申告で損益通算できる場合があります。
相続税を申告した場合、相続開始から3年10か月以内に売却すれば支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得税を圧縮できます。売却を検討している場合は税理士に確認することをおすすめします。
投資信託の相続:基準価額と評価・手続きの注意点
投資信託の相続も株式と基本的な流れは同じですが、「基準価額(1口あたりの価値)が毎日変動する」という特性があります。
| 相続税評価額の 計算方法 |
原則として死亡日の基準価額(または類似する直近の基準価額)×口数で計算。証券会社から「死亡日時点の評価額証明書」を取得することで確認できる |
|---|---|
| 分配金が 発生している場合 |
死亡後に分配金の支払いがある場合、その分配金も相続財産または相続人への帰属として取り扱う必要がある。手続き完了前の分配金の処理は証券会社に確認する |
| 解約(換金)の タイミング |
投資信託の換金(解約)は申請日から数営業日後の基準価額で行われることが多い(ファンドによって異なる)。手続き中の価格変動リスクを把握しておくことが重要 |
| 外貨建て 投資信託の場合 |
外貨建ての商品は為替レートによって評価額が変わる。死亡日の為替レートで円換算した額が相続税評価額になる |
NISAの相続:非課税枠は引き継げない
NISA(少額投資非課税制度)の口座は、亡くなった方の非課税の恩恵は相続人には引き継がれません。これは多くの方が誤解しているポイントです。
| 死亡時点で NISAが終了 |
亡くなった方のNISA口座は死亡日をもって終了します。相続人がNISA口座のまま証券を引き継ぐことはできません |
|---|---|
| 課税口座への 移管 |
NISA口座内の証券は「課税口座(特定口座または一般口座)」に移管されます。移管された時点では税金は発生しませんが、移管後に売却した際には譲渡益に約20%の税金が発生します |
| 移管時の 取得単価 |
課税口座に移管された際の取得単価は死亡日の評価額(相続税評価額に相当する金額)となります。これが将来の売却時の取得費になります |
| 2024年以降の 新NISAの場合 |
2024年から始まった新NISA(成長投資枠・つみたて投資枠)も同様に、死亡時点で非課税枠が終了し、相続人の非課税枠とは別に計算されます |
亡くなった方のNISA口座の非課税の恩恵はその方の死亡時点で終了します。相続人が引き継いだ後に売却すれば、通常の課税口座と同様に譲渡益に課税されます。
NISA口座の手続きも通常の証券口座と基本的な流れは同じです。ただし「NISA口座から一般口座・特定口座への振り替え」という処理が追加で行われることを証券会社に確認してください。また相続人の口座を「特定口座(源泉徴収あり)」にしておくと、売却時の税務処理が簡便になります。
相続人に証券口座がない場合の対応
株式・投資信託を取得する相続人が証券口座を持っていない場合の対応方法です。
| 選択肢 | 内容・メリット・注意点 |
|---|---|
| 証券口座を 新規開設して移管 |
相続人が同じ証券会社(または別の証券会社)に口座を開設し、証券を移管する。証券をそのまま保有し続けたい場合にはこの方法が必要。口座開設には本人確認書類・マイナンバー等が必要。開設まで1〜2週間程度かかることがある |
| 換金(売却)して 現金で受け取る |
証券会社が株式・投資信託を売却し、売却代金を相続人の銀行口座に振り込む方法。証券口座を開設しなくてよいのがメリット。ただし売却のタイミングによって価格変動の影響を受ける |
| 別の証券会社へ の移管 |
被相続人が利用していた証券会社と別の証券会社に口座を持っている(または開設する)場合、別の証券会社への移管も可能。手続きが増えるが選択肢の一つ |
口座開設には審査があり、開設まで1〜2週間程度かかることがあります。手続きを急いでいる場合や価格変動が気になる場合は「換金(売却)」を先に行い、相続完了後に新たに証券を購入するという方法も現実的な選択肢です。
証券会社が不明な場合:「ほふり」照会の活用
「故人が株を持っていたようだが、どの証券会社を使っていたかわからない」という場合の対処法です。
| 「ほふり」への 照会 |
証券保管振替機構(ほふり)は上場株式・投資信託等の大部分を一元管理しています。「登録済加入者情報の開示請求」を行うことで、被相続人が保有していた上場株式・投資信託等の存在を確認できます。 申請先:証券保管振替機構(ほふり) 費用:手数料が発生(数千円程度) 期間:申請から数週間程度 ※ 未上場株式・一部の金融商品は対象外 |
|---|---|
| 自宅・遺品からの 手がかり |
・証券会社からの郵便物・明細書 ・通帳の摘要欄に「株式売買代金」「配当金」の記録 ・スマホのアプリ(証券会社のアプリが入っていないか確認) ・メールに「取引報告書」「配当金計算書」等 |
| 特別口座 (特別管理口座) |
株式の電子化(2009年)以前から持っていた株式は「特別口座」に保管されている場合がある。これは信託銀行が管理しており、ほふりの照会とは別に確認が必要 |
相続税評価:株式・投資信託の評価方法
相続税の計算では、株式・投資信託を相続開始日(死亡日)の価格で評価します。
上場株式の評価(4時点の最低値)
① 相続開始日(死亡日)の終値
② 相続開始日が属する月の終値の平均額
③ 相続開始日が属する月の前月の終値の平均額
④ 相続開始日が属する月の前々月の終値の平均額
※ 証券取引所・証券会社のウェブサイトで確認できる。証券会社に「死亡日時点の評価額証明書」を発行してもらうと計算済みの値が得られる
投資信託の評価
・非上場投資信託(一般の投資信託):死亡日の基準価額×口数−解約手数料等
証券会社が発行する「評価額証明書」に計算済みの金額が記載されることが多いため、それを活用してください
非上場株式(中小企業の株式等)の評価
中小企業の株式(非上場株式)は国税庁の定める「財産評価基本通達」に従った複雑な計算が必要です。純資産価額方式・類似業種比準方式等の計算方法があり、誤った評価は相続税の過払い・過少申告につながるため必ず税理士に依頼してください。
証券口座と相続税申告の関係
証券口座がある場合の相続税申告で特に注意すべきポイントを整理します。
- 死亡日時点の評価額証明書を証券会社から取得する:相続税申告に必要な評価額は証券会社が発行する評価額証明書で確認する。複数の証券会社がある場合は全社から取得する
- 配当金・分配金の処理:死亡後に証券口座に入金された配当金・分配金は相続財産の一部として計上が必要な場合がある。税理士に確認する
- 取得費の記録を保管する:将来の売却時の譲渡所得計算のために、被相続人が購入した際の取得価格の記録(取引報告書等)を保管しておく。紛失すると取得費が「売却金額の5%」とみなされ不利になることがある
- NISAの非課税枠の終了を申告上も正しく処理する:NISA口座から課税口座への移管時の処理を税理士に確認する
- 相続税申告期限(10か月以内)の前に遺産分割協議を完了させる。未分割のまま申告すると特例が使えないケースがある
よくある疑問(Q&A)
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