【専門家が解説】遺贈寄付とは?メリット・手続き・税金・注意点をやさしく解説

遺贈寄付とは:「亡くなった後に社会貢献する」という選択

「子どもがいない」「相続人がいない」「残した財産を社会のために役立てたい」——そうした思いを持つ方が増える中、「遺贈寄付(遺贈寄附)」が注目される生前対策の一つとして広がっています。

遺贈寄付とは、遺言書等によって、自分が亡くなった後に財産の全部または一部を特定の団体・機関に寄付することです。NPO・社会福祉法人・大学・国・地方公共団体等が主な寄付先になります。生前の寄付とは異なり、自分が生きている間は財産を使い続けられる点が特徴です。

日本では「遺贈寄付に関する法律」はなく、遺言書・相続財産の寄付・信託といった既存の法律手段を活用して実現します。適切な手続きを経ることで、本人の意思を確実に実現できます。

💡 この記事でわかること:
遺贈寄付の3つの方法(遺言・相続後の寄付・信託)、本人・相続人・受遺者それぞれのメリット、税務上の取り扱い(相続税・所得税・法人税)、手続きと遺言書の書き方、遺贈先の選び方、遺留分との関係、不動産・有価証券の注意点、よくある失敗まで解説しています。

遺贈寄付の3つの方法:遺言・相続財産の寄付・信託

遺贈寄付を実現する方法は大きく3つあります。それぞれ法的な性格・税務上の取り扱い・手続きが異なります。

📋 遺贈寄付の3つの方法の比較
①遺言による遺贈 遺言書に「〇〇団体に□□を遺贈する」と明記する。死亡後に遺言執行者が寄付先に財産を引き渡す。最も確実で意思が明確に伝わる方法。遺贈先の事前同意を得ておくことが重要
②相続財産からの
寄付(相続人が寄付)
本人の意向を受けて、相続人が相続後に財産を寄付する方法。法的拘束力はなく相続人の意思に依存する。「申告期限内(相続開始から10か月以内)に寄付すれば相続税の課税対象から外れる」という税制上のメリットがある(租税特別措置法70条)
③遺言代用信託・
遺贈寄付信託
信託銀行・信託会社と契約して、死亡後に特定の団体に寄付される仕組みを生前に設定する方法。遺言書がなくても実現できる。信託期間中は信託財産を管理してもらえる。最低設定金額(100万円程度〜)がある
「確実に寄付したい」なら遺言書による遺贈が最も確実:
相続人に委ねる方法は法的拘束力がないため、本人の死後に相続人の気が変わると寄付が実現しない可能性があります。本人の確固たる意思がある場合は「遺言書(公正証書遺言)による遺贈」が最も確実な手段です。

遺贈寄付のメリット:本人・相続人・受遺者それぞれの視点

本人(遺贈者)にとってのメリット

  • 生涯にわたる社会貢献の「締めくくり」を形にできる:生前に支援してきた活動・団体への最後の贈り物として財産を活かすことができる
  • 子どもがいない・相続人がいない方の財産の行き先を決められる:相続人がいない場合、財産は国庫に帰属する(特別縁故者がいる場合を除く)。遺贈寄付によって本人の意思に基づく帰属先を指定できる
  • 自分の名前・思い出を後世に残す「遺産」になりうる(基金の設置・事業名への冠名等)
  • 生前は財産を使い続けられる(生前贈与と違い手元から財産が出ていかない)

相続人にとってのメリット(②の方法の場合)

相続人が相続後10か月以内に国・地方公共団体・特定の公益法人等に寄付した場合、その寄付した財産は相続税の課税対象から除外されます(租税特別措置法70条)。つまり相続税を節税しながら社会貢献できるという側面があります。

ただし:
・寄付先が特定の要件(国・地方公共団体・公益法人等)を満たす必要がある
・寄付後2年以内にその財産が公益目的に使われなかった場合等は適用が外れる場合がある
・税理士への確認が必須

受遺者(寄付先の団体)にとってのメリット

  • まとまった財産を受け取ることで、長期的・継続的な事業展開が可能になる
  • 一般の寄付(少額・短期)と異なり、建物・設備・基金設置等の大規模な活動に活かせる
  • 遺贈者の「遺志」を引き継ぐという形でミッションとの結びつきが強まる

遺贈寄付の税務:相続税・所得税・法人税の関係

遺贈寄付の税務は「誰が・何を・どこに寄付するか」によって課税関係が変わります。税理士に相談しながら進めることが重要です。

①相続税の取り扱い

📋 遺贈寄付と相続税の関係
遺言による遺贈
(寄付先が特定の
公益法人等)
国・地方公共団体・公益社団法人・公益財団法人・認定NPO法人等への遺贈は、相続税が非課税になります(租税特別措置法70条)。遺贈した財産は相続税の課税財産から除外される
遺言による遺贈
(寄付先が一般法人等)
認定を受けていない一般社団法人・一般財団法人等への遺贈は、原則として相続税の課税対象になる(遺贈した財産相当額に相続税がかかる)
相続人が相続後に
寄付する場合
相続開始から10か月以内に特定の法人等(国・地方公共団体・公益法人等)に寄付した場合、その財産は相続税の課税価格から控除される(租税特別措置法70条)

②所得税(みなし譲渡課税)の注意点

⚠️ 不動産・有価証券を遺贈すると「みなし譲渡」として所得税がかかる場合があります。
現金以外の財産(不動産・株式等)を遺贈した場合、遺贈者(被相続人)が時価で売却したとみなして所得税(譲渡所得税)が課税される「みなし譲渡課税」が発生する場合があります(所得税法59条)。これは被相続人の準確定申告で申告・納税が必要です。

ただし:公益法人等への遺贈で一定の要件を満たす場合は、所轄庁の承認を得ることでみなし譲渡課税の非課税承認を受けられる制度があります(国税庁への申請が必要)。

③受遺者(寄付先の団体)の法人税

公益法人・認定NPO法人等が遺贈を受けた場合、公益目的事業のために使われる財産については法人税が非課税になることが多いです。ただし収益事業に使われる部分は課税対象になる場合があるため、寄付先の会計・税務処理については受遺者側の専門家が確認します。

遺贈寄付の手続き:遺言書への記載方法と注意点

遺言による遺贈を確実に実現するには、遺言書に正確な情報を記載することと、寄付先との事前確認が不可欠です。

遺言書への記載のポイント

  • 寄付先の正式名称・所在地・代表者名を正確に記載する:団体名の略称・誤字は後のトラブルの原因になる。法人謄本等で正式名称を確認する
  • 何を寄付するかを明確に記載する:「現金〇〇万円」「〇〇銀行〇〇支店の預金」「□□の土地(地番・面積)」等、特定できる記載をする
  • 「遺贈する」または「包括遺贈する」等の法律上の言葉を使う:「あげる」「渡す」という表現では遺贈の効力が曖昧になることがある
  • 遺言執行者を指定する(寄付先の受取手続きをスムーズに進めるために重要)
  • 「団体が受遺を拒否した場合・解散した場合の補欠条項」を入れる:寄付先が消滅していた場合に財産の行き先が宙に浮かないようにする
遺言書への記載例(公正証書遺言の場合の文例のイメージ):

「遺言者は、遺言者が有する一切の財産のうち、○○円を〇〇法人(正式名称・本店所在地・法人番号)に遺贈する。遺言者は、遺言執行者として○○○○(住所・氏名)を指定する。なお、上記遺贈先が受遺を拒否した場合または解散した場合は、遺言者の長男○○(住所・氏名)に相続させる。」

※ 実際の文言は公証人・行政書士・弁護士等の専門家と相談して作成してください

寄付先との事前確認が重要な理由

⚠️ 全ての団体が遺贈を受け入れるわけではありません。
不動産等の換金困難な財産・債務がある財産・管理コストがかかる財産は、寄付先が受遺を断るケースがあります。遺言書作成前に必ず寄付先の担当窓口に連絡して「受遺の意思と受け入れ条件」を確認してください。多くの団体は「遺贈寄付相談窓口」を設けています。

遺贈先の選び方:NPO・社会福祉法人・大学・国等

遺贈先には様々な選択肢があります。「何のために使ってほしいか」という目的から逆算して選ぶことが重要です。

遺贈先の種類 特徴・向いている目的 相続税非課税の可否
国・地方公共団体 最も確実に非課税になる。公共目的への寄付として行政が管理する ○(非課税)
公益財団法人・
公益社団法人
文化・教育・福祉・環境等の公益目的で活動する団体。「公益認定」を受けた法人が対象 ○(非課税)
認定NPO法人 所轄庁(都道府県・内閣府)から「認定」を受けたNPO法人。医療・福祉・環境・国際協力等幅広い分野 ○(非課税)
社会福祉法人 特別養護老人ホームや障がい者施設等を運営。福祉分野への貢献に有効 ○(非課税・条件あり)
学校法人・大学 奨学金・研究助成等の教育目的に活用してもらえる。自分が卒業した大学への遺贈も多い ○(条件あり)
一般NPO法人・
一般社団法人等
認定を受けていない法人への遺贈は非課税にならないことが多い △(原則課税対象)
「遺贈寄付を希望するあなたと団体をつなぐ」支援機関も活用できます:
「日本承継寄付協会」「遺贈寄付サポートセンター」等、遺贈寄付の相談・マッチングを支援する団体があります。「どんな分野に貢献したいか・どんな使い方をしてほしいか」を整理したうえで相談すると、適切な寄付先を紹介してもらえます。

遺留分との関係:家族への配慮と遺贈のバランス

遺贈寄付を検討する際に必ず確認しなければならないのが「遺留分(いりゅうぶん)」です。

⚖️ 遺留分と遺贈寄付の関係
遺留分とは 配偶者・子・父母には「最低限受け取れる相続の権利(遺留分)」があります。相続財産の2分の1(父母のみの場合は3分の1)が全遺留分で、各人の法定相続分に応じて割り振られる
遺留分を
侵害した場合
遺言書で全財産を団体に遺贈する内容にした場合でも、相続人は「遺留分侵害額請求」によって遺留分相当額を金銭で請求できる。遺贈が無効になるわけではないが、寄付先に金銭支払いを求められる可能性がある
対策 遺留分を計算したうえで「相続人の遺留分を確保した残りの部分を遺贈する」という設計にすることが最善。遺贈の割合は「全財産の〇%」ではなく「遺留分を除いた残余財産」とする書き方も有効
遺留分を意識した遺贈寄付の設計例:

配偶者と子1人がいる場合の遺留分は各自4分の1(合計2分の1)。

→ 財産の半分を家族に残し、残りの半分を遺贈寄付するという設計であれば遺留分の問題が生じない。

または「配偶者に2分の1を相続させ、残り2分の1を〇〇法人に遺贈する」等、法定相続人への配分を先に確保したうえで遺贈の対象を決めることをおすすめします。
⚠️ 「子どもがいない・相続人がいない」場合は遺留分を気にせず遺贈できます。
兄弟姉妹には遺留分がありません。相続人が兄弟姉妹のみ・または相続人が誰もいない場合は、全財産を遺贈する遺言書を書いても遺留分の問題は生じません。ただし「法定相続人が誰もいないと思っていたが実は甥・姪がいた」というケースがあるため、必ず戸籍調査で相続人を確認してください。

不動産・有価証券を遺贈する場合の注意点

現金以外の財産を遺贈する場合は、税務・受け入れ可否・換金の手間という3つの観点から特に注意が必要です。

不動産を遺贈する場合

みなし譲渡課税(所得税):被相続人が時価で売却したとみなされて所得税が発生する場合がある。特に長期保有で含み益の大きい不動産は注意
寄付先が受け入れを断るリスク:管理コスト・換金の難しさ・将来的な負担から、不動産の遺贈を断る団体も多い。事前確認が必須
登記の移転コスト:登録免許税・司法書士費用が発生する。これらの費用負担を誰がするかを遺言書で明示しておくとスムーズ
現実的な対応策:不動産を売却して現金化したうえで寄付する方法が実務上よくある。遺言執行者に「換価して寄付する」権限を与えることができる

有価証券(株式・投資信託等)を遺贈する場合

・みなし譲渡課税(所得税)の問題:不動産と同様に時価での売却とみなされる可能性がある
受遺者が証券口座を持つ必要がある:株式の移管には受遺者側の証券口座が必要。寄付先が証券口座を持っていない場合は売却して現金で受け取ることになる
・上場株式の場合は比較的スムーズだが、非上場株式の遺贈は換金が困難なため団体側が受け入れを断るケースが多い
「現金での遺贈」が最もシンプルで確実:
現金(預貯金)を遺贈する場合は、みなし譲渡課税の問題がなく・受け入れが断られるリスクが低く・手続きが最もシンプルです。遺贈寄付を初めて検討する方は、まず現金(特定の銀行口座の預金)の遺贈から始めることをおすすめします。

遺贈寄付に関する注意点・よくある失敗

  • 寄付先に事前連絡をしていなかった:死後に遺言執行者が寄付先に連絡したが「受け入れ条件を満たさない」「担当部署が対応できない」等のトラブルが発生。生前に必ず寄付先窓口に相談しておくことが重要
  • 団体名を正確に記載しなかった:「〇〇財団」と書いたが正式名称は「一般財団法人〇〇財団」だった等、名称の不一致で遺言の解釈争いになることがある
  • 遺留分を考慮しなかった:全財産を団体に遺贈する遺言書を書いたが、子どもから遺留分侵害額請求を受けて団体が金銭支払いを求められた
  • 遺言執行者を指定しなかった:遺言執行者がいないと、寄付の手続きが相続人全員の協力なしには進まない場合がある
  • 補欠条項を入れなかった:寄付先が解散・廃止になっていたが補欠の受け取り先が指定されておらず財産の行き先が宙に浮いた
  • 不動産の遺贈で税務上の負担が予想外に大きかった:みなし譲渡課税で相続人(準確定申告の申告者)に大きな税負担が生じた
💡 公正証書遺言+専門家への相談が最も失敗を防ぎます:
遺贈寄付を確実に実現するには、公正証書遺言を選ぶこと・行政書士や弁護士に遺言書の内容を確認してもらうこと・寄付先と事前に合意内容を確認しておくことの三つが柱になります。

よくある疑問(Q&A)

Q. 子どもも親族もいません。財産を全部社会に役立てたいのですが、どうすればいいですか?
遺言書(公正証書遺言)による遺贈が最も確実な方法です。相続人がいない(または兄弟姉妹のみで遺留分なし)の場合は全財産を遺贈することができます。まず支援したい分野・団体を決め、寄付先に事前相談のうえで遺言書を作成してください。遺言執行者(行政書士・弁護士等の専門家)を指定しておくと死後の手続きがスムーズです。また任意後見契約・死後事務委任契約も合わせて準備しておくことをおすすめします。
Q. 遺贈寄付をすると相続税はかかりませんか?
寄付先が国・地方公共団体・公益法人・認定NPO法人等の特定の法人の場合、遺贈した財産は相続税の課税対象から除外されます(租税特別措置法70条)。ただし認定を受けていない一般法人等への遺贈は課税対象になる場合があります。また不動産・有価証券の遺贈は所得税(みなし譲渡課税)が発生する場合があるため、必ず税理士に確認してから設計してください。
Q. 特定のNPO法人を応援しています。そこに遺贈できますか?
可能です。ただしそのNPO法人が「認定NPO法人」かどうかによって税務上の扱いが変わります。認定NPO法人であれば相続税の非課税が適用されますが、認定を受けていない一般のNPO法人への遺贈は課税対象になる可能性があります。また団体が実際に遺贈を受け入れているかどうかを事前に確認してください。認定NPO法人かどうかは内閣府NPOホームページの「NPO法人ポータルサイト」で確認できます。
Q. 遺贈寄付と生前寄付はどちらがいいですか?
それぞれに特徴があります。生前寄付は今すぐ活動を支援できる・確定申告で寄付金控除が受けられる(所得税の節税)というメリットがある一方、手元の財産が減ります。遺贈寄付は生前は財産を手元に置いたまま死後に寄付できる・金額が大きくなりやすいというメリットがあります。「今すぐ活動を支援したい」なら生前寄付、「老後の生活費確保と社会貢献を両立したい」なら遺贈寄付という選択が現実的です。両方を組み合わせることも可能です。

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