相続税の「障害者控除」を分かりやすく解説|条件・計算方法・よくある勘違い

相続税の「障害者控除」とは何か

相続税の障害者控除とは、障害のある方が相続・遺贈によって財産を取得した場合に、相続税額から一定額を差し引ける制度です。障害のある方は将来にわたって多くの費用が必要になることを考慮した税制上の配慮措置です。

「障害者控除」という名前から所得税の控除と混同されることがありますが、相続税の障害者控除は「相続税の計算段階で税額から直接差し引く」もので、控除の効果は非常に大きくなります。

障害者控除の基本:

一般障害者:10万円 × (85歳 − 相続時の年齢)
特別障害者:20万円 × (85歳 − 相続時の年齢)

例:相続時に35歳の特別障害者 → 20万円 × 50年 = 1,000万円を相続税額から控除
💡 この記事でわかること:
障害者控除の適用条件、一般障害者と特別障害者の違い、控除額の計算方法と具体例、控除額が税額を超えた場合の扶養義務者への振替、よくある勘違い・注意点、他の控除との組み合わせ、申告手続き、過去の未適用の場合の対処(更正の請求)まで解説しています。

障害者控除が適用される条件

障害者控除を受けるためには、以下の全ての条件を満たす必要があります。

📋 障害者控除の適用条件
条件①
法定相続人
であること
障害者控除の対象は法定相続人に限られます。遺贈によって財産を受け取った相続人以外の方(受遺者)は対象外です。なお相続放棄をした方も法定相続人の数には含まれますが、放棄した方自身は控除を受けられません
条件②
日本国内に
住所があること
相続開始時(亡くなった日)に日本国内に住所があること。海外に居住している法定相続人は原則として対象外(一定の例外あり)
条件③
障害者に
該当すること
相続開始時に税法上の「障害者」に該当すること(Section 2参照)。障害者手帳の有無だけでなく、医師の診断書等でも認定される場合がある
条件④
85歳未満
であること
控除額の計算に「85歳 − 相続時の年齢」を使うため、85歳以上の方は控除額がゼロになります(85歳以上は対象外)
⚠️ 「法定相続人」であることが必須です。遺贈を受けた相続人以外の方は対象外です。
例えば被相続人の内縁の配偶者・事実婚の相手・友人等は法定相続人ではないため、障害があっても遺贈で財産を受け取った場合は障害者控除を受けられません。

一般障害者と特別障害者の違い

障害者控除には「一般障害者(10万円/年)」と「特別障害者(20万円/年)」の2段階があります。税法上の区分は障害者手帳の等級と完全に一致しないため注意が必要です。

区分 主な対象者(代表例) 控除額(1年あたり)
特別障害者 ・身体障害者手帳1・2級
・療育手帳A(重度)
・精神障害者保健福祉手帳1級
・常時介護が必要な程度の知的障害(判定された場合)
・重度の精神障害(精神保健指定医の診断書等で認定)
・戦傷病者手帳特別項症〜第3項症
20万円
一般障害者 ・身体障害者手帳3〜6級
・療育手帳B(中軽度)
・精神障害者保健福祉手帳2・3級
・上記「特別障害者」以外で税法上の障害者に該当する方
10万円
💡 障害者手帳がなくても「特別障害者」と認定される場合があります:
常時介護が必要な程度の知的障害がある方や、6か月以上寝たきりの重度障害がある方は、手帳の等級に関わらず税法上「特別障害者」として認定される場合があります。判断が難しい場合は税理士に相談してください。

控除額の計算方法:具体例でわかりやすく解説

障害者控除の計算式は以下の通りです。

計算式:

一般障害者:10万円 × (85歳 − 相続開始時の年齢)
特別障害者:20万円 × (85歳 − 相続開始時の年齢)

※ 年齢の計算は「満年齢」で行い、1歳未満の端数は切り捨てではなく切り上げ(例:34歳9か月→35歳として計算)
※ 過去に障害者控除を受けたことがある場合は、その時の残額(控除しきれなかった分)のみ控除できる場合がある

具体例①:特別障害者・35歳の場合

20万円 × (85 − 35)= 20万円 × 50年 = 1,000万円の控除

相続税額が800万円だった場合 → 1,000万円の控除 > 800万円の税額 → 相続税はゼロ(差額200万円は扶養義務者の税額から控除可能。Section 4参照)

具体例②:一般障害者・60歳の場合

10万円 × (85 − 60)= 10万円 × 25年 = 250万円の控除

相続税額が400万円だった場合 → 400万円 − 250万円 = 150万円が最終的な納税額

具体例③:特別障害者・84歳の場合

20万円 × (85 − 84)= 20万円 × 1年 = 20万円の控除

85歳以上では控除額がゼロになります。84歳では最低でも20万円の控除が受けられます。

控除額が相続税を超えた場合:扶養義務者への振替

障害者控除の金額が、障害のある相続人自身の相続税額を超える場合、超えた部分を「扶養義務者」の相続税から差し引くことができます。これを「控除額の振替」といいます。

📋 控除額の振替の仕組み
扶養義務者とは 配偶者・直系血族(親・子・祖父母・孫等)・兄弟姉妹、および家庭裁判所が扶養義務を認めた三親等内の親族
振替の計算 障害者控除額 − 障害のある相続人の相続税額 = 振替できる残額
この残額を、同じ相続での扶養義務者の相続税額から差し引く
振替の具体例 障害者控除額1,000万円・障害者本人の税額800万円 → 残額200万円を扶養義務者(親・兄弟等)の税額から差し引ける
扶養義務者が複数いる場合は協議で按分する
注意点 振替は同じ相続における扶養義務者のみ適用可能。過去の別の相続での税額には振替できない
障害者控除の振替は「申告書への記載」が必要です:
扶養義務者への振替は自動的には行われません。相続税申告書に振替の計算を記載する必要があります。税理士に必ず伝えて申告書に反映してもらってください。

よくある勘違い:申請のポイントと注意点

⚠️ よくある勘違いと正しい理解
勘違い①
「手帳があれば
必ず適用される」
障害者手帳があれば原則適用されますが、85歳以上は控除額ゼロ・法定相続人でない方は対象外・日本に住所がない方は原則対象外等の制限があります。手帳があれば「自動的に」適用されるわけではありません
勘違い②
「申告が不要なら
関係ない」
障害者控除を適用することで相続税額がゼロになる場合でも、相続税申告書の提出が必要な場合があります(他の相続人の申告と一緒に提出する必要がある)。税理士に確認してください
勘違い③
「所得税の障害者
控除と同じ」
所得税の障害者控除(27万円または40万円の所得控除)とは全く別の制度です。相続税の障害者控除は「税額控除」であり、金額も計算方法も異なります
勘違い④
「年齢は
満年齢を使う」
相続開始時の年齢は満年齢で計算しますが、1歳未満の端数は切り捨てではなく切り上げです。例えば34歳8か月の場合は「35歳」として計算します
勘違い⑤
「過去の相続で
使った分は
今回も引ける」
過去に障害者控除を適用した場合、その時点での残額(85歳までの残り年数に応じた金額から過去の控除分を差し引いた額)のみが今回使える控除額です。二重には使えません

障害者控除と他の控除との組み合わせ

相続税の障害者控除は、他の税額控除と組み合わせて適用することができます。

控除の種類 内容 障害者控除との関係
配偶者税額軽減 配偶者が相続する場合、1億6,000万円または法定相続分のどちらか大きい金額まで非課税 組み合わせ可能。配偶者が障害者に該当する場合は両方適用できる
未成年者控除 18歳未満の法定相続人に対して10万円×(18歳−年齢)を税額から控除 組み合わせ可能。18歳未満で障害のある場合は未成年者控除と障害者控除の両方が適用される
相次相続控除 10年以内に2回相続が発生した場合に前回納税額の一部を控除 組み合わせ可能
贈与税額控除 相続財産に加算された生前贈与に課された贈与税を控除 組み合わせ可能。適用の順序は税理士に確認
複数の控除を組み合わせると相続税が大幅に下がる可能性があります:
障害者控除に加えて配偶者税額軽減・未成年者控除・相次相続控除等を組み合わせることで、相続税額が大幅に減少するケースがあります。必ず税理士に全ての控除を確認してもらって申告してください。

申告手続き:どこに・何を提出するか

障害者控除を受けるためには、相続税申告書に必要な書類を添付して申告する必要があります。

📋 申告手続きの概要
申告先 被相続人(亡くなった方)の住所地を管轄する税務署(相続人の住所地ではない)
申告期限 相続開始を知った日の翌日から10か月以内
障害者控除の
適用に必要な
添付書類
障害者手帳の写し(身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳等)
・手帳がない場合:医師の診断書・精神保健指定医の意見書等(障害の程度を証明する書類)
・相続税申告書の「障害者控除の計算明細書」への記載
注意点 障害者控除を適用しても税額がゼロになる場合も、相続税申告書の提出が必要なケースがあります(他の相続人の申告と一緒に提出)。税理士に確認してください

過去の相続で未適用だった場合:更正の請求

「以前の相続申告で障害者控除を適用し忘れた」という場合、「更正の請求」によって過払いした相続税の還付を受けられる可能性があります。

更正の請求の概要:

請求できる期間:申告期限の翌日から5年以内(法定の更正請求期間)
請求先:当初申告した税務署
必要なもの:更正の請求書・当初の相続税申告書の控え・障害者控除の証明書類(手帳の写し等)

更正の請求が認められると、過払いした相続税に利子(還付加算金)がついて返還されます。
⚠️ 5年の時効に注意してください。早めに確認することをおすすめします。
「5年以内」は申告期限からではなく「法定申告期限の翌日から5年」です。過去の相続で障害者控除を適用していない可能性がある場合は、期限が切れる前に税理士に相談してください。

よくある疑問(Q&A)

Q. 精神障害者保健福祉手帳2級を持っています。一般障害者・特別障害者のどちらですか?
精神障害者保健福祉手帳2級は「一般障害者」に該当します。特別障害者になるのは精神障害者保健福祉手帳1級のみです。ただし手帳の等級だけでなく、日常生活の状況・介護の必要性によっては特別障害者と認定される場合もあるため、不明な場合は税理士に確認してください。
Q. 障害者手帳は持っていませんが、医師から重度の障害と診断されています。障害者控除は受けられますか?
手帳がなくても医師の診断書・意見書等によって障害者と認定される場合があります。精神保健指定医の診断書で「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態にある」と認められた場合は特別障害者として扱われます。具体的には担当の税理士・税務署に相談して、添付できる証明書類を確認してください。
Q. 障害のある子が相続人ですが、遺産分割協議書を作成するために成年後見人を立てなければなりませんか?
判断能力が不十分な場合は成年後見人の選任が必要です。知的障害・精神障害等により遺産分割協議に参加できない程度の判断能力がない場合は、家庭裁判所に成年後見開始の審判を申立てて後見人を選任してもらう必要があります。後見人が代理で遺産分割協議に参加します。相続税の申告期限(10か月)内に後見人の選任手続きを完了させる必要があるため、早めに弁護士・司法書士に相談してください。
Q. 親が亡くなって障害のある子が相続人になりました。相続税申告は自分でできますか?
障害者控除・成年後見との連携・扶養義務者への振替等が絡む場合、税理士への依頼を強くおすすめします。障害者控除の計算ミス・適用忘れ・振替の未記載等のミスは多く見られます。また障害のある相続人が成年後見人を必要とする場合は行政書士・司法書士との連携も必要になります。まず相続専門の税理士に相談してください。

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