名義が違う・未登記家屋がある:相続登記の前に整えた実務事例

相続登記を進めようとしたとき、最初の壁になりやすいのが ①登記簿の住所・氏名が現実とズレている②建物がそもそも未登記(法務局に登記が存在しない) の2パターンです。

この2つを放置したまま「遺産分割協議書を作る」「登記申請だけ出す」と、 差戻しや追加書類の対応で時間が大きくロスします。

本記事では、名義のズレと未登記家屋が見つかった実務事例(再構成)をもとに、 相続登記の前に何を・どの順番で整えるかを、 必要書類・段取り・差戻しになりやすいポイントを含めて解説します。

※個人情報保護のため事例は再構成しています。物件状況(増築・取り壊し・測量の要否)や遺言の有無によって、必要書類・手続きは変わります。


「名義が違う」「未登記家屋」って、何が問題になるの?

相続登記は「亡くなった方から相続人へ名義を移す」手続きですが、 登記の世界は「登記簿の記載を前提に」動きます。 そのため、次のようなズレがあると申請が進みにくくなります。

よくある2つの壁

  • 壁① 名義が違う(住所・氏名のズレ):登記簿の住所が何十年も前のまま/旧姓のまま/番地の表記が違う……など
  • 壁② 未登記家屋:固定資産税は課税されているのに、法務局に建物の登記が存在しない(または実態と登記が合っていない)

これらは「相続人の意思」では解決できず、書類で"つながり"を作る必要があります。 先にここを整えることで、その後の協議書・相続登記・売却までが一気に進みやすくなります。

⚠️ 「とりあえず申請を出してみよう」は逆効果になりやすいです。
登記簿と書類の不整合が残ったまま申請しても、法務局から補正(訂正・追加書類の指示)が入り、時間と手間が倍になります。先に「何が揃っていないか」を確認することが最大の時短です。

先に結論:相続登記の前に"整える順番"がある

名義ズレや未登記家屋があるときは、次の順番で進めると差戻しが最小になります。 逆順にすると追加書類で止まりやすいので、この流れを意識してください。

順番 やること 目的
相続人の確定(戸籍の収集) 話し合い・署名押印・登記の土台を作る
名義ズレ(住所・氏名)を証明書で"つなぐ" 登記簿と現実を一致させる
未登記家屋は「表示の登記」を検討 建物を登記の世界に"載せる"
遺産分割協議書(または遺言)を整える 誰が取得するかを明確化する
相続登記(権利の移転登記)の申請 名義変更を完了させる
①〜③を先に固めると、④⑤が一本道になります:
「誰が相続するか」「どの物件か」「名義のつながりはあるか」の3点が揃えば、協議書・登記申請ともにスムーズに流れます。焦って⑤から始めると、①〜③の不備で止まるのが実務の定番パターンです。

実務事例(モデル):名義ズレ+未登記家屋を整理して前へ進めた流れ

実務でよくある構図を再構成したモデル事例です。ご自身のケースと照らし合わせてみてください。

背景(モデル事例)

  • 亡くなった方:Aさん(数年前に死亡)
  • 相続人:子2人(長男・長女)
  • 不動産:土地(登記あり)+建物(固定資産税は課税されているが、登記が見当たらない)
  • 問題①:土地の登記簿にあるAさんの住所が古く、死亡時住所と一致しない
  • 問題②:建物は未登記の可能性(増築歴もあり、図面が不十分)
  • 希望:将来売却も視野に入れながら、まずは相続登記を終えたい

このケースでいきなり「相続登記を申請」しても、問題①②を理由に高確率で補正が入ります。 そこで次のように切り分けて対応しました。

切り分けと対応の方針

  • 土地:名義ズレ(住所)を住民票の除票・戸籍の附票でつないで解消
  • 建物:未登記であることを確認し、表示の登記(表題登記等)を先に実施(土地家屋調査士と連携)
  • 並行:相続人の確定(戸籍収集)と、遺産分割の方針決定(誰がどの物件を取得するか)を同時に進める

結果として、土地は名義ズレを整理したうえで相続による所有権移転登記へ。 建物は状況整理(未登記・増築の有無)を行い、必要な表示の登記を経てから権利の登記につなげることができました。

「いま何が足りないか」を先に見える化したことで、期限不安が強い状況の中でも実務として前進できた事例です。


チェック表:あなたの状況はどれ?

まず自分がどのパターンかを確認することが、無駄な動きを省く最初のステップです。

タイプ 見分け方 最初にやること
名義ズレ 登記簿の住所・氏名が、被相続人の死亡時の情報と違う 住民票の除票・戸籍の附票・戸籍で"つなぐ"書類を収集する
未登記家屋 固定資産税は課税されているが、法務局で登記事項証明書が出ない 課税台帳・家屋番号を確認→表示の登記(表題登記等)を検討する
両方あり 住所ズレもあり、建物は未登記(または実態と登記が合っていない) 「土地=名義ズレの解消」「建物=表示の登記」を並行で設計する

ポイントは「登記事項証明書」と「固定資産税の課税明細」を並べて照合することです。法務局の登記と市区町村の課税台帳は別管理のため、両方を確認しないと実態が見えません。


必要書類まとめ:まず揃える"定番セット"

まず全体の定番セットを揃えます。ここから名義ズレ・未登記の状況に応じて追加書類が発生します。

定番セット(全体)

  • 相続関係:被相続人の戸籍(出生〜死亡まで連続したもの)、相続人全員の戸籍・住民票
  • 不動産の特定:登記事項証明書(全部事項)、固定資産税の課税明細・評価証明書
  • 分割の根拠:遺言書 または 遺産分割協議書(必要な場合)、相続人全員の印鑑証明書
状況 追加で必要になる主な書類・手続き
名義ズレ 住民票の除票・戸籍の附票(住所の変遷を追うため)、旧姓がある場合は改姓の経緯がわかる戸籍
未登記家屋 固定資産税の課税台帳・家屋番号の確認、表題登記に必要な図面・建築確認資料(土地家屋調査士が収集を主導)

※登記で必要な書類は、遺言の種類(自筆・公正証書等)や取得者の人数(単独・共有)によって変わります。早めに「誰名義にするか(ゴール)」を決めると書類が絞りやすくなります。


STEP1:名義ズレ(住所・氏名)を"つなぐ"

名義ズレの解消は、難しそうに見えて考え方はシンプルです。 「登記簿に載っている情報」「死亡時点の情報」の間を、 公的書類で連続性をもって"つなぐ"だけです。

名義ズレでよく使う書類

  • 住民票の除票:死亡時の住所の証明に使うことが多い(保存期間に注意:令和元年以前抹消分は5年で廃棄)
  • 戸籍の附票(除附票):住所の移転履歴を追うために使う。転籍があれば転籍前の本籍地でも取得が必要
  • 戸籍:改姓(旧姓→現姓)や出生地・転籍などのつながりを示す

ズレが複数回ある場合のコツ

転居や改姓が複数回ある場合、途中が切れないように"連続した証明"を作ることがポイントです。 「登記簿の住所→除票Aの旧住所→附票の現住所」というように、1本の線でつながる書類の流れを設計してください。 不安があれば、登記簿の情報と除票・附票のどの住所が一致するかを先に照合してから収集を始めると遠回りが減ります。

⚠️ 住民票の除票の保存期間に注意してください。
令和元年6月以前に抹消された住民票は市区町村で5年後に廃棄されているため取得できない場合があります。この場合は戸籍の附票での対応が必要になります。早めの確認を推奨します。

STEP2:未登記家屋は「表示の登記」から考える

未登記家屋は、「権利の登記(所有権移転)の前に」、 そもそも建物を登記簿に載せるための「表示に関する登記(表題登記等)」を検討することが多いです。

未登記家屋でまず確認すること

  • 固定資産税の課税明細に「家屋番号」や建物情報が載っているか
  • 法務局で建物の登記事項証明書が出るか(出なければ未登記の可能性が高い)
  • 増築・取り壊し・建替え等、実態が変わっていないか

実務でよく止まるポイント

  • 図面・建築確認資料が手元に残っていない
  • 増築があり、現況と古い資料が一致しない
  • 土地家屋調査士の現地調査・測量が必要になり、着手から完了まで時間がかかる

未登記家屋は、役所の固定資産税台帳と法務局の登記が別管理のため「税金は払っているのに登記がない」という状況が起こり得ます。将来の売却・担保設定を見据えるなら、早めに「登記の整備まで」を視野に入れると安心です。

⚠️ 未登記家屋は「相続人申告登記」の対象外になる場合があります。
令和6年4月施行の相続登記義務化で設けられた「相続人申告登記」は、権利登記が存在することを前提とします。建物が未登記の場合は先に表示の登記が必要になるケースが多く、期限(3年)との兼ね合いで早めの着手が重要です。

STEP3:遺産分割協議書を"通る形"に整える

名義ズレ・未登記の整理を進めながら、最終的には「誰が何を取得するか」を明確にする必要があります。 協議書の書き方が曖昧だと登記で止まりやすいため、ポイントを押さえておきます。

差戻しを減らす協議書作成のコツ

  • 土地・建物の表示は、できる限り登記簿どおりの表記で(所在・地番・家屋番号・床面積等)
  • 未登記家屋が絡む場合は課税台帳の記載を参考にしつつ、第三者が見ても物件を特定できる記載にする
  • 相続人全員の署名・実印押印と印鑑証明書の住所表記のズレに注意(住民票の住所どおりに記載)
  • 登記・調査・測量等の費用負担について、簡単でも合意事項として記載しておくとトラブル予防になる
「ゴール(誰名義にするか)」を最初に決めると協議書が一本道になります:
「誰が不動産を取得するか」が決まらないと、協議書の文言が揺らぎます。分割の方針は話し合いの初期段階で合意しておき、文書化のタイミングで迷わないようにしておくことが時短のコツです。

STEP4:期限が迫るときの現実的な進め方

期限への不安が強いときほど、「全部完璧にしてから動く」より 並行作業で"止まりポイント"を同時に潰すことが現実的です。

並行軸 やること 狙い
A 戸籍・相続人確定の書類収集 全手続きの土台を作る
B 名義ズレの資料収集(除票・附票) 差戻しの芽を先に摘む
C 未登記家屋の現況確認(課税台帳・資料探索・土地家屋調査士への相談) 表示の登記が必要かどうかを早期判断する
D 相続人間の分割方針の合意(誰が何を取得するか) 協議書作成をシンプルにする

この4本を同時に走らせると、どれか一つが詰まっても他が進み、全体が止まりにくくなります。 特に未登記家屋は状況確認と表示の登記に時間がかかるため、最初に着手しておくことが期限不安への最大の対策になります。

⏰ 相続登記の義務期限(相続を知った日から3年以内)が迫っている場合、まず「相続人申告登記」で義務履行の要件を暫定的に満たしておく方法もあります(建物が既登記の場合)。詳細は法務局または専門家にご相談ください。


よくある差戻し・追加対応(先回りチェック)

実務でよく見る差戻しパターンを先にチェックしておくことで、手間と時間を大きく節約できます。

差戻しを減らす先回りチェック

  • 住所ズレ:登記簿の住所と死亡時住所が一致しない → 除票・附票で連続性を作る
  • 氏名ズレ:旧姓・通称・旧字体の漢字違い → 戸籍で同一人物であることを証明する
  • 不動産の特定:固定資産税の課税明細だけで判断しない → 必ず登記事項証明書で照合する
  • 未登記家屋:増築・取り壊しの歴史がある → 現況整理と必要手続き(表示の登記等)を先に検討する
  • 印鑑証明書:住所表記のズレ・有効期限の確認・実印の押し間違い → 署名押印の前に相続人全員分を確認する

「名義ズレ」と「未登記」は、どちらも「書類のつなぎ」で解決する問題です。 つなぎ方さえ分かれば、必要以上に怖がらなくても大丈夫です。 まず手元にある「登記簿(現状)」と「除票・附票・課税台帳(現実)」を並べて、どこが切れているかを確認することが最初の一手です。


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