相続人に認知症の方がいる:成年後見の利用で止まっていた手続きを動かした事例
結論:相続人に認知症の方がいると、遺産分割協議(分け方の話し合い)が「本人が理解して決められる状態(意思能力)」かどうかで止まることがあります。 意思能力が十分でない場合は、家庭裁判所で成年後見(後見・保佐・補助)を利用して「代理・同意の仕組み」を作ると、止まっていた手続きが動きやすくなります。
この記事では、銀行解約・不動産名義変更・証券手続きが止まってしまったケースで、成年後見の利用によって前に進めたモデル事例をもとに、 手続きの順番、必要書類、詰まりやすい原因と対策を、行政書士法人の実務目線でやさしく整理します。
※個人情報保護のため事例は再構成しています。ご本人の状態・遺産内容・家族関係により最適な進め方は変わります。
目次
「認知症=すぐ後見」ではない?まず押さえるポイント
まず大切なのは、判断の軸が「診断名」より「意思能力」だという点です。 たとえば「認知症と診断された」だけで直ちに協議ができないわけではありません。 逆に、診断名がなくても、実際に意思表示が難しい場合は協議が成立しにくくなります。
意思能力をやさしく言い換えると
「何の話をしているか分かる」→「選択肢を比べられる」→「自分の意思で決められる」状態かどうか、というイメージです。 遺産分割協議は、財産の分け方という重要な法律行為なので、この点が特に見られます。
そしてもう一つ。協議が止まるときは、家族の問題というより制度上“止まる仕組み”であることが多いです。 だからこそ、原因が分かれば、次の一手(後見の申立て等)が見えやすくなります。
止まりやすい場面:銀行・登記・証券で何が起きる?
認知症の相続人がいるとき、よく止まるのは次の3つです。どれも「本人の意思確認が取れない(または取れたと見なせない)」と、進めにくくなります。
| 止まる場所 | よくある状況 | 家族の感じる不安 |
|---|---|---|
| 銀行 | 遺産分割協議書に署名・押印が必要だが、本人の理解が不十分 | 「窓口で断られた」「書類が差し戻された」 |
| 不動産 | 相続登記(名義変更)に必要な協議が成立しない | 「家が売れない」「名義が動かせない」 |
| 証券 | 移管・解約のための同意や書類が整わず、相続手続きが停止 | 「株価が動くのに何もできない」 |
ポイント
「認知症の相続人がいる」だけで止まるのではなく、 遺産分割協議(分け方を決める段階)で止まることが多いです。 ここを動かす仕組みが成年後見です。
モデル事例:後見の利用で手続きを動かした流れ
よくある状況を再構成したモデル事例です。
背景(モデル)
- 相続人:子2人+被相続人の配偶者(高齢、認知症の進行あり)
- 遺産:自宅不動産、預貯金、少額の投資信託
- 止まっていた理由:遺産分割協議書に配偶者の署名押印が必要だが、内容理解が難しい
- 困りごと:銀行解約ができず、固定資産税や介護費の支払いが不安
やったこと①:まず「全体の段取り」を家族と共有
いきなり後見申立てに入る前に、家族の不安を整理しました。 ここを飛ばすと「後見人って誰?」「財産はどうなる?」という不安で、逆に話が止まりやすくなります。
共有した“ゴール”
- まずは協議を成立させる土台(代理・同意の仕組み)を作る
- その後、銀行・登記・証券を同時並行で進める
- 相続税の可能性があるなら、評価資料の収集も早めに並走する
やったこと②:成年後見の申立て→「協議ができる状態」へ
家庭裁判所で成年後見の手続きを進め、後見人(または保佐人・補助人)が決まったことで、 認知症の相続人を含む遺産分割協議が進められるようになりました。
やったこと③:協議成立後、銀行解約・登記・投信手続きを再始動
協議が成立すると、その後の手続きが一気に動きます。 このケースでは、生活費や介護費の支払い不安が大きかったため、優先順位をつけて進めました。
優先順位(現実的に安心が増える順)
- 当面の支払いに必要な資金確保(銀行の相続手続き)
- 不動産の名義整理(相続登記)
- 投資信託の解約・移管(必要書類を揃えて差し戻しを防ぐ)
成年後見(後見・保佐・補助)をやさしく整理
成年後見は「認知症の方を縛る制度」というより、 本人の権利や財産を守りながら、必要な契約や手続きを進める仕組みです。
| 区分 | ざっくりイメージ | 相続で効いてくるポイント |
|---|---|---|
| 後見 | 判断がかなり難しい状態で、代理の範囲が広め | 遺産分割協議などを代理して進めやすい |
| 保佐 | 重要な判断にサポートが必要(同意が中心) | 同意が必要な行為があり、止まりの原因を減らせる |
| 補助 | 部分的に支援が必要(必要な範囲だけ) | 支援範囲を絞り、生活への影響を抑えたいときに検討 |
注意点(やさしく)
後見は便利な一方で、家庭裁判所の関与が続きやすく、運用(報告・管理)が必要になることがあります。 だからこそ、「今回の相続を動かすために必要な範囲はどこか」を意識して進めると、納得感が出やすいです。
手続きの順番(STEP表):最短で“動く状態”を作る
認知症の相続人がいる相続では、最初に「協議ができる状態」を作るのがカギです。 そのための現実的な段取りをSTEPでまとめます。
| STEP | やること | 止まらないコツ |
|---|---|---|
| 1 | 相続人確定(戸籍)/遺言の有無の確認 | 遺言があると「協議そのもの」が不要になる場面があります |
| 2 | 意思能力の見立て(家族の実感+医療情報の整理) | 「できる/できない」を感情でなく整理して共有 |
| 3 | 遺産の棚卸し(預貯金・不動産・証券・負債) | 後見の申立て後、すぐ協議に入れる準備 |
| 4 | 成年後見(後見/保佐/補助)の申立て | 「何のために必要か」を申立てに落とし込みます |
| 5 | 後見人等が決まる→遺産分割協議(合意形成) | 協議書の体裁を整え、金融機関・登記で使える形に |
| 6 | 銀行解約・登記・証券手続きを並走 | 優先順位をつけ、生活費・税・管理費の不安を先に減らす |
現場の実感:一番の時短は「並走設計」
後見が決まるのを待つ間に、戸籍・遺産資料・必要書類の準備を進めておくと、 後見開始後に協議→手続きが一気に進みやすくなります。
必要書類:申立て・相続手続きで揃えるもの
書類は「多い」よりも「整合が取れている」ことが大切です。 ここでは準備のイメージがつくように、代表的なカテゴリでまとめます(最終は家庭裁判所・各金融機関の案内が優先です)。
① 成年後見の申立てで出てきやすいもの(目安)
- 申立書(後見・保佐・補助)
- 本人(認知症の方)に関する資料(家裁の案内に沿ったもの)
- 親族関係が分かる戸籍等
- 財産の概要が分かる資料(預貯金・不動産・証券などの手がかり)
- 後見が必要な理由(今回の相続手続きが止まっている事情など)
② 相続手続き(銀行・登記・証券)で定番になりやすいもの
- 被相続人の戸籍(死亡の記載)・相続人の戸籍
- 遺言書 または 遺産分割協議書
- 相続人の印鑑証明・本人確認書類
- 不動産の資料(固定資産評価証明など)
- 証券がある場合は残高報告書・取引報告書など
※証券・投資信託は「口座区分(NISA/特定など)」で必要書類や説明が変わることがあります。先に相続窓口へ連絡し、必要書類一式を取り寄せるのが安全です。
よくある詰まりポイント10(原因と対策)
「認知症の相続人がいる相続」で、実務で詰まりやすい点を10個に絞りました。先回りしておくと、手戻りが減ります。
- “認知症だから全部ダメ”と思い込む:焦り → 意思能力を軸に整理
- 協議書を先に作って差し戻し:やり直し → 後見で「協議できる状態」を先に作る
- 後見申立て中に準備が止まる:時間が延びる → 戸籍・遺産資料・必要書類を並走で準備
- 遺産の棚卸しが甘い:協議が固まらない → 残高証明・評価資料で“見える化”
- 生活費の不安で揉める:感情対立 → 優先順位(当面資金→登記→証券)を共有
- 不動産をどうするか決まらない:停滞 → 売却/承継/共有回避の方針を先に
- 相続人が多く連絡が大変:押印が遅い → 郵送スケジュールを先に組む
- 金融機関ごとの書式差で混乱:差し戻し → 最初に相続窓口へ連絡し「一式」を入手
- 証券の価格変動が不安で勝手に売る:不信感 → 売却の理由・根拠資料をセットにする
- 期限(税・登記)を見落とす:後で焦る → 棚卸しと評価資料だけでも早めに整える
生前にできる備え:認知症で“詰まらない”準備
認知症が進むと、本人名義の財産が動かしにくくなり、相続の前段階(介護費の支払い、契約変更など)でも詰まりやすくなります。 生前の備えは、難しいことより「困る前に、家族が動ける道筋を作る」ことです。
続けやすい順のおすすめ
- 財産の手がかりメモ(口座・証券・不動産の一覧だけでも)
- 家族会議で「誰が窓口になるか」を決める
- 遺言書の検討(協議が不要になる可能性)
- 状況に応じて、任意後見・家族信託など“前倒しの仕組み”を検討
どの制度が合うかは、資産の種類(不動産が多い/預貯金中心/証券が多い)や家族構成で変わります。大切なのは「早めに一度、設計図を作る」ことです。
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