相続した株式の名義変更:証券会社の手続きと売却タイミングの注意
結論:相続した株式は、基本的に「証券会社で相続手続き(名義変更=相続人の口座へ移す)」→「移った後に売却や移管を検討」の順番で進めるのが安全です。
- まず詰まりやすいのは書類です。遺言の有無・相続人の確定・分け方(誰が株を引き継ぐか)を先に整理すると早いです。
- 売却タイミングは、株価だけでなく税金(取得費)・NISAの扱い・相続税の申告期限(10か月)も一緒に見て決めると失敗が減ります。
- 「とりあえず売って現金化してから分ける」は、手続き面でも感情面でも揉めやすいので、基本は名義変更を先に考えるのがおすすめです。
※証券会社ごとに書式・求める資料が少し違います。最初に相続窓口へ連絡して「必要書類一式」を取り寄せるのが最短ルートです。
1. 最初にやること:口座の特定と「相続窓口への連絡」
相続した株式の手続きは、スタートで8割決まります。最初にやることは次の2つだけです。
(1)どの証券会社に口座があるかを探す
証券口座は、銀行口座より「気づきにくい」ことがあります。次の場所をチェックすると見つかりやすいです。
- 取引報告書・運用報告書・特定口座年間取引報告書(紙・PDF)
- 証券会社からの郵便物(住所変更があると届いていないことも)
- スマホアプリのアイコン・SMS・メール(ログイン通知など)
- 銀行通帳の入出金(配当金の入金、証券会社への入金)
(2)見つけたらすぐ「相続窓口」に連絡して、案内一式をもらう
証券会社は、相続手続き専用の窓口と書式があります。自分で戸籍収集を始める前に、まず連絡して必要書類の指定(その会社のルール)を確定させると、取り直しが減ります。
コツ:電話や問い合わせの前に、メモでOKなので「被相続人の氏名・生年月日・住所(登録住所が分かれば)」「口座番号が分かる資料」「死亡日」を手元に置いておくと、案内がスムーズです。
2. 証券会社の名義変更の流れ:何が終わると売れる?
多くの証券会社では、相続の連絡後、口座(取引)に制限がかかるイメージです。焦点は「いつ売れるか」より、まず誰の口座に株を移すかです。
基本の流れ(これで全体像がつかめます)
- 相続受付(相続窓口に連絡)
- 相続人の確認(戸籍・法定相続情報など)
- 承継者の確定(遺言 or 遺産分割協議書など)
- 相続人(承継者)の口座へ移管(=名義変更)
- 移管後に、売却/保有継続/他社へ移す(移管)を検討
注意点:「相続人の代表がとりあえず動いて、あとで分ける」は、疑念が生まれやすい典型パターンです。
できるだけ相続人全員に共有(進捗・書類・残高)しながら進めると安心です。
3. 必要書類の基本セット:戸籍・法定相続情報・印鑑証明
必要書類は証券会社ごとに細部が異なりますが、方向性は似ています。「相続人は誰か」「誰がその株式を引き継ぐか」を確かめる書類です。
(1)よくある基本セット(目安)
- 死亡の事実が確認できる書類(戸籍謄本、住民票除票など)
- 相続人との関係が分かる書類(戸籍一式、または法定相続情報一覧図)
- 相続人(承継者)の本人確認書類
- 相続人の印鑑証明書(期限が指定されることがあります)
- 遺言書または遺産分割協議書(ケースによる)
- 証券会社所定の申請書(相続受付後に届く)
(2)「法定相続情報一覧図」があると楽になる理由
金融機関が複数ある場合、戸籍を何度も出すのは大変です。法定相続情報一覧図があると、相続関係をまとまった形で示しやすく、手間が減ることがあります。
実務の目線:「戸籍は集められるけど、何が必要か分からない」という場合でも、証券会社へ先に連絡して“必要な範囲”を確定させると、心理的にも一気に楽になります。
4. ケース別:遺言あり/遺産分割協議/法定相続のまま
ケースA:遺言書がある
遺言で「誰に株式を相続させるか」が決まっているなら、その指定に沿って移管します。自筆証書遺言などで手続き上の確認が必要な場合は、証券会社の案内に従って進めます。
ケースB:遺産分割協議で、株式の承継者が決まっている
相続人全員で「この銘柄はAが引き継ぐ」と合意しているなら、協議書(+印鑑証明等)で進みます。銘柄名・株数の書き方が曖昧だと差し戻しになりやすいので、丁寧に作るのがコツです。
ケースC:協議がまとまらず“法定相続分の共有”のまま
共有のままだと、売却・管理・配当の扱いが複雑になります。最低限、次の順番で整理できると前に進みやすいです。
- 「誰が」証券会社との連絡窓口になるか(代表者の決定)
- 配当金・優待の扱いをどうするか(共有の間のルール)
- 最終的に現金化して分けるか/銘柄ごとに分けるか
5. 実務のコツ:相続人の口座・他社移管・複数証券の同時進行
(1)相続人名義の証券口座が必要になることがあります
名義変更(移管)先は「相続人の口座」です。相続人に口座がない場合、口座開設で時間がかかることがあります。相続税の申告が絡む見込みがあるなら、早めの着手が安心です。
(2)他社にまとめたいなら「名義変更→移管」の順が基本
“最終的にはA社に集約したい”という場合でも、最初は口座のある証券会社で相続手続きを完了させ、その後に他社へ移す方がスムーズなことが多いです。
(3)複数の証券会社がある場合は「並行」で進める
1社ずつ順番にやるより、同じ書類(法定相続情報など)を使い回す想定で、同時進行した方が全体は早く終わることがあります。
注意点:「印鑑証明の期限」や「戸籍の有効期限」が指定されるケースがあるため、提出タイミングをそろえるとやり直しが減ります。
6. 売却タイミングの注意:株価だけで決めない4つの判断軸
「いつ売るべき?」は、ご家庭の事情で正解が変わります。迷ったら、次の4つを順にチェックすると判断がブレにくくなります。
判断軸①:納税資金(相続税)や当面の生活費は足りる?
相続税がかかる見込みで、現金が足りない場合は、売却で納税資金を作る必要が出ることがあります。ここは「株価の上下」以前に、資金繰りの優先度が高くなります。
判断軸②:相続人の合意は取れている?(揉めそうなら“売る前”に整える)
同じ株でも、「持ちたい人」と「売りたい人」が混在しがちです。売却を急ぐほど感情がこじれやすいので、分け方(誰が何を相続するか)が固まってから動く方が安心です。
判断軸③:税金の前提(取得費)が分かっている?
株の売却益は、ざっくり言うと売値 − 取得費で決まります。取得費(買ったときの金額)が不明だと、税金計算が不利になりやすいので、売る前に「取得費をどう確認するか」を検討すると安全です。
判断軸④:NISA・配当・株主優待の“節目”をまたぐ?
NISA口座の株は扱いが通常と違います。また配当・優待は権利確定のタイミングがあるため、「名義変更の完了時期」と絡むと話がややこしくなります。気になる場合は、証券会社の案内で確認した上で進めましょう。
7. 税金の超基本:取得費の引継ぎ/取得費不明/取得費加算/NISA
(1)取得費は、原則「亡くなった方の取得費」を引き継ぐ
相続で取得した株式の取得費は、原則として被相続人の取得費を引き継ぐ考え方です。つまり「相続した日の時価」ではなく、「もともといくらで買ったか」が重要になります。
(2)取得費がどうしても分からない場合の考え方
古い取引で資料が見つからないこともあります。その場合、一定の取扱い(概算)がありますが、不利になりやすいので、まずは証券会社の取引履歴・過去の報告書の探索がおすすめです。
(3)取得費加算の特例:相続税がある人は“売却時の税金”が軽くなる可能性
相続や遺贈で取得した財産を一定期間内に譲渡した場合、相続税額の一部を取得費に加算できる特例があります。株式の売却でも、条件により検討対象になります。
(4)NISA口座の株式は、相続人のNISAにそのまま移せない(扱いが違う)
NISA口座内の株式は相続の対象ですが、相続により払い出されると、通常の課税口座での管理となり、取得費の考え方も一般の相続と違う整理になる点が重要です。NISAが絡む場合は、証券会社の案内に沿って進めるのが安全です。
ポイント:「相続税」と「売却(譲渡所得)の税金」は別物です。相続税がある人ほど、売却のタイミングで“使える特例があるか”を早めに確認すると安心です。
8. よくあるつまずき:失敗しないチェックリスト12
- □ どこの証券会社か分からず、数か月放置してしまう
- □ 先に戸籍を集めたが、証券会社の指定とズレて取り直しになる
- □ 相続人の口座がなく、口座開設で時間がかかる
- □ 遺言があるのに、遺産分割協議を進めて混乱する
- □ 協議書に銘柄・株数が書き切れておらず差し戻される
- □ 相続人全員への共有がなく、「勝手に動いた」と疑われる
- □ 取得費が不明なまま売却して、税金が高くなる
- □ 配当・優待のタイミングをまたいで、入金や権利の話が揉める
- □ NISAの株を相続人のNISAへ移せると思い込み、手続きが止まる
- □ 相続税の申告期限(10か月)を意識せず、資金繰りが厳しくなる
- □ 複数証券会社があるのに、1社ずつ進めて全体が遅れる
- □ 「売る・持つ・分ける」の方針が決まらず、名義変更後に停滞する
9. 関連記事(内部リンク):相続の全体像も一緒に確認
株式の名義変更は、相続手続き全体の一部です。期限や他の手続きと合わせて確認すると、迷いが減ります。
- 〖2026年対応〗相続手続きの全体像:やることチェックリスト(期限順)
- 相続登記はいつまで?義務化の期限・過料の考え方・間に合わない時の対処(2026年対応)
- 遺産分割協議書の作り方:必須記載・よくある無効例・修正方法
- 〖初心者向け〗NISAは相続できる?非課税枠の扱いと手続きの注意点
- 相続放棄の判断基準:3か月の起算点・やってはいけない行動・費用
10. まとめ:今日やる「1枚メモ」テンプレ
相続した株式の名義変更は、完璧を目指すほど止まりやすいです。まずはこれだけを紙に書いて、家族で共有すると進みます。
(コピペOK)株式相続の1枚メモ ・証券会社:______(口座番号が分かれば:____) ・被相続人:______(死亡日:____) ・相続人:______(人数:____) ・遺言:あり/なし(保管場所:____) ・株式の方針:売る/持つ/分ける(未定なら「いつ決めるか」:____) ・まずやること:相続窓口に連絡して案内一式を取り寄せる(担当者名:____)