相続した投資信託の手続き:解約・移管・課税のポイント

この記事の結論

相続した投資信託の手続きは「解約(換金)して現金で受け取る」か「移管(名義変更)して引き続き保有する」の2択です。どちらの場合も金融機関への相続手続きの申出・戸籍謄本等の書類提出が必要です。課税面で最も重要なのは「相続時の基準価額が取得価額(取得費)として引き継がれる」点で、後で売却したときの利益の計算が変わります。また相続税の申告では死亡日の基準価額で評価します。NISAで保有していた投資信託は非課税枠が引き継がれず注意が必要です。

投資信託の相続:まず全体像を把握する

投資信託は銀行・証券会社・郵便局等で購入できる金融商品であり、相続財産として引き継ぐことができます。現金や預金と異なり毎日価格(基準価額)が変動するため、相続税評価・売却時の課税計算に独自のルールがあります。

📋 投資信託の相続:基本的な性質と注意点
財産としての
性質
投資信託は受益権(利益を受け取る権利)として相続財産になります。株式と同様に相続人が引き継げますが、価値が毎日変動します
口座の
凍結
金融機関が死亡を知った時点で口座が凍結されます。凍結後は相続人であっても勝手に解約・売却できません。正式な相続手続きを経て初めて動かせます
価格変動の
リスク
相続手続きに時間がかかる間も基準価額は変動し続けます。手続き完了まで数週間〜数か月かかることがあるため、値下がりリスクが続くことを理解した上で対応方針を決めることが重要です
分配金の
扱い
相続開始後に発生する分配金も相続財産の一部として扱われます。手続き完了前に分配金が発生している場合は金融機関に確認してください
💡 この記事でわかること:
投資信託の相続における探し方、解約と移管の違いと選択基準、手続きの流れと必要書類、相続税評価の計算方法、売却時の取得費の引継ぎ(課税計算への影響)、NISA口座の注意点まで解説しています。実際の手続き・課税計算は必ず各金融機関・税理士に確認してください。

投資信託の探し方:口座の有無を確認する

投資信託は複数の金融機関に口座が分散していることがあるため、まず全口座を把握することが必要です。

  • 通帳・取引明細を確認する:証券会社・銀行・郵便局からの「取引残高報告書」「運用報告書」が届いていないか確認する。年に1〜2回届く場合が多い
  • 確定申告書・源泉徴収票を確認する:分配金・解約益等の収入が記載されていれば投資信託を保有していた証拠。特定口座の「年間取引報告書」も同様
  • 証券会社・銀行への照会:心当たりがある金融機関に「相続人として口座照会」を申し出る。口座がない場合も教えてもらえることが多い
  • 日本証券業協会の「証券口座照会サービス」を活用:被相続人が証券口座を持っていたかどうかを一括で照会できるサービスがある(有料・要申請)
  • パソコン・スマートフォンの証券会社アプリ・ネット証券のブックマークを確認する
  • 郵便物に「SBI証券」「楽天証券」「野村證券」等の封筒が来ていないか確認する
⚠️ 投資信託は「銀行窓口で購入したもの」が見落とされやすいです。
証券会社だけでなく、メガバンク・地方銀行・ゆうちょ銀行の窓口でも投資信託を購入できます。銀行の通帳に「投資信託買付」の記載がある場合は、その銀行で投資信託口座を確認してください。

選択肢①解約(換金):現金化して受け取る

相続した投資信託を解約(換金・買取)して現金で受け取る選択肢です。相続人が投資に詳しくない・今後自分で管理したくない場合に選ばれることが多いです。

📋 解約の仕組みと注意点
解約の流れ 相続手続き完了後(名義が相続人に移った後)または金融機関によっては相続手続きと同時に解約指示ができる場合があります。解約代金は相続人の指定口座に振り込まれます
基準価額の
タイミング
投資信託の解約は申請した翌営業日以降の基準価額で換金されます(ファンドによって異なります)。手続きを出してもすぐに当日価格で換金されるわけではありません
信託財産留保額 解約時に「信託財産留保額」(解約手数料の一種)が差し引かれるファンドがあります。ファンドの目論見書で確認してください。留保額が0.3〜0.5%程度かかるファンドもあります
課税 解約時の利益(解約価額-取得価額)に所得税・住民税が課税されます(20.315%)。ただし「取得価額(取得費)」は相続時の基準価額で引き継がれるため、相続直後の解約では利益がほぼゼロになることが多い(Section 6参照)

選択肢②移管(名義変更):そのまま引き継いで保有する

被相続人の投資信託を解約せずに相続人の証券口座に移管(名義変更)してそのまま保有し続ける選択肢です。

💴 解約(換金)を選ぶ場合
・投資信託の管理に自信がない
・今後の相場見通しが不安
・相続人間で現金で分配したい
・信託財産留保額がない(または小さい)ファンド
・複数のファンドを整理したい
📂 移管(保有継続)を選ぶ場合
・長期保有で価値が上がると思っている
・解約すると信託財産留保額のコストがかかる
・相続人自身も投資に関心がある
・相続税評価と売却タイミングを調整したい
・ファンドの種類・内容を理解している
📋 移管の手続き:同一金融機関か別の金融機関かで異なる
同一金融機関内
での移管
被相続人と相続人が同じ証券会社・銀行に口座を持っている場合は金融機関内での名義変更(名義書換)で対応できます。書類も比較的シンプルです
別の金融機関
への移管
被相続人の口座(例:野村證券)から相続人の口座(例:SBI証券)への移管は「投資信託振替制度」を利用して行います。ただし全てのファンドが移管できるわけではないため、移管先の証券会社に事前に確認が必要です
移管できない
場合
移管先の金融機関が取り扱っていないファンドは移管できません。この場合は解約して現金で受け取るか・被相続人と同じ金融機関に口座を開設して移管する必要があります

相続手続きの流れ:必要書類と手順

投資信託の相続手続きは各金融機関の所定の方法で行います。おおまかな流れは以下のとおりです。

1
金融機関に死亡の連絡・相続手続きの申出をする 電話または窓口で被相続人の死亡を連絡します。口座が凍結されます。「相続手続き書類一式」を取り寄せます(郵送・窓口受取)。必要書類の案内を受けます
2
残高確認・残高証明書の取得 相続税申告が必要な場合は「残高証明書(死亡日時点の基準価額・口数)」を取得します。相続税の申告に必要です。手数料がかかる場合があります
3
遺産分割協議で誰が引き継ぐか決める 相続人全員で誰が(または何割ずつ)投資信託を引き継ぐかを決めます。遺産分割協議書に「〇〇証券の投資信託(ファンド名・口数)を〇〇が取得する」と具体的に記載します
4
必要書類を揃えて金融機関に提出 金融機関ごとに必要書類が異なりますが、一般的に必要なものは以下のとおりです(Section 4の書類一覧参照)
5
解約または移管の実行 書類審査完了後に解約(換金代金の相続人口座への振込)または移管(相続人の口座への振替)が実行されます。手続きの完了まで提出後2週間〜1か月程度かかることがあります

一般的に必要な書類

  • 相続届(金融機関所定の用紙):各金融機関が独自の書式を用意しています。窓口または郵送で取り寄せます
  • 被相続人の出生から死亡までの全戸籍謄本:相続人を確定するために必要。除籍謄本・改製原戸籍謄本も含みます
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書:全相続人の署名・実印押印。印鑑証明書(全員分)を添付
  • 遺言書の写し(遺言がある場合):公正証書遺言は謄本・自筆証書遺言は検認済みの原本
  • 相続人(申請者)の本人確認書類(運転免許証等)
  • 相続人の振込先口座情報(解約・換金の場合)
  • 移管先の口座情報(移管の場合)
複数の金融機関がある場合は「法定相続情報証明書」の活用が効率的:
法務局で発行してもらえる「法定相続情報証明書」(相続関係を一覧図で証明する書類)を使うと、各金融機関に戸籍謄本の束を提出する代わりに1枚の証明書で対応できます。複数の金融機関・証券会社に手続きをする場合は特に有効です。

相続税評価:死亡日の基準価額で評価する

投資信託は相続税の評価において死亡日の基準価額(または特定の計算方法)で評価されます(財産評価基本通達199条)。

📋 投資信託の相続税評価:ファンドの種類別の計算方法
上場されている
ETF等
株式と同様に「死亡日の終値・月平均価格等のうち最も低い値」で評価します(財産評価基本通達169条準用)
公社債投資信託
(MRF・MMF等)
「1口あたりの基準価額×口数」で評価します。経過利子(解約日までの利息相当分)も評価額に加算します
証券投資信託
(一般的な投資信託)
死亡日の基準価額に基づき以下の式で評価します:
(基準価額×口数)-解約手数料等(信託財産留保額等)
※ 解約できない場合等は別途評価方法があります
投資信託の相続税評価の概算例
死亡日の基準価額:12,500円(1万口あたり)
保有口数:300万口
信託財産留保額:0.3%

評価額:12,500円×300万口÷10,000口 = 375万円
留保額控除後:375万円×(1-0.3%) ≒ 373.9万円
※ 実際の計算は税理士に依頼してください
💡 残高証明書は「死亡日時点の評価額が記載されたもの」を取得してください:
金融機関に「死亡日現在の残高証明書(評価額・口数・基準価額が記載されたもの)」を依頼することで、相続税申告の資料として使えます。手数料(数百〜数千円程度)がかかることがあります。

取得費の引継ぎ:売却したときの課税計算

投資信託を相続した後に売却(解約)した場合の課税計算で最も重要なのが「取得費(取得価額)の引継ぎ」です。

📋 「取得費は相続時の基準価額で引き継がれる」の意味
相続で取得した
場合の取得費
相続によって取得した投資信託の「取得費(取得価額)」は相続時の相続税評価額(死亡日の基準価額)となります(所得税法60条1項2号の例外として相続の場合は別扱い)。正確な取扱いは税理士に確認が必要ですが、原則として被相続人の当初購入価格を引き継ぐ場合(所得税法60条)と相続時評価額となる場合があります。相続税を支払っている場合は一定の加算も可能です
相続税額の
取得費加算
相続税を支払っている場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例(相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例)があります。相続開始から3年10か月以内に売却した場合に適用できます。この特例で課税対象の利益を減らせます
取得費加算の
効果イメージ
例:相続時の評価額400万円の投資信託を600万円で売却した場合
・取得費加算なし:利益200万円に20.315%の税
取得費加算あり:支払った相続税の一部を差し引いて課税対象利益を圧縮できます
取得費の計算は複雑です。必ず税理士に確認してから売却してください。
取得費の扱い(被相続人の購入価格を引き継ぐか・相続時評価額になるか)は状況によって異なり、税理士でも判断が分かれる部分があります。「相続した投資信託を売却したい」と思ったら、まず税理士に取得費の計算と取得費加算特例の適用可否を確認してから売却することをおすすめします。

NISA口座の投資信託:非課税枠は引き継がれない

被相続人がNISA口座(少額投資非課税制度)で保有していた投資信託には特別な注意が必要です。

⚠️ NISA口座の相続:非課税扱いは相続人に引き継がれない
NISAの
非課税枠
NISA口座内の投資信託は運用益・分配金が非課税でした。しかしNISA口座の非課税の恩恵は口座名義人本人だけのものであり、相続人には引き継がれません
相続後の
扱い
被相続人のNISA口座内の投資信託は、死亡日時点で「課税口座(特定口座または一般口座)」に移されたとみなされます。相続人が受け取るときは通常の課税口座の投資信託として扱われます
相続後に
売却した場合の
課税
相続人がNISA口座から引き継いだ投資信託を後で売却する場合は通常の課税(20.315%)が適用されます。「非課税だと思っていた」という誤解が生じやすいため注意が必要です
新NISAへの
移行
2024年から始まった新NISAも同様です。被相続人の新NISA口座の非課税枠・保有資産は相続人の新NISA口座に引き継ぐことはできません
NISA口座の投資信託は「死亡日の基準価額が取得費」になるため、直後に売却すれば税負担は少ない:
NISA口座から課税口座に移行した際の取得費は死亡日の基準価額となります。相続直後に売却すれば値上がり益がほぼないため課税負担は軽くなります。一方で長期保有して値上がりした後に売却すると、その分の値上がり益に課税されます。税理士と売却タイミングを相談することをおすすめします。

よくある疑問(Q&A)

Q. 投資信託の残高が少額(数十万円程度)でも相続手続きは必要ですか?
金額に関わらず相続手続きが必要です。金融機関は相続人から正式な相続手続き書類の提出がない限り口座を動かしません。ただし一部の金融機関では少額の場合に手続きが簡略化される「簡易相続手続き」を設けている場合があります。まず該当の金融機関に「少額の場合の手続き方法」を確認することをおすすめします。なお相続税申告が必要かどうかは他の財産も含めた全遺産の総額で判断するため、少額でも財産目録に含めて税理士に確認してください。
Q. 相続人が3人いて、一人が投資信託を単独取得します。残り2人には現金で代償する予定です。手続きはどうなりますか?
遺産分割協議書に「特定の相続人が投資信託を単独取得し、他の相続人に代償金〇〇万円を支払う」旨を明記することで対応できます。金融機関には「取得した相続人」の名義で相続手続きを申請します。代償金の金額は投資信託の相続税評価額(死亡日の基準価額)を基に決定することが一般的です。代償金の支払いについては支払いの証拠(振込記録等)を残しておくことで後のトラブルを防げます。
Q. 相続した投資信託をすぐに解約したいのですが、相続手続きが完了する前に基準価額が大きく下がりそうです。急ぐ方法はありますか?
相続手続き完了前の解約はできませんが、手続きを急ぐことはできます。まず即座に金融機関に電話して「相続手続きの緊急対応」を依頼し、必要書類を最優先で揃えます。戸籍謄本は最寄りの市区町村役場で即日取得できることもあります。遺産分割協議書は相続人全員が協力すれば数日で作成できます。また一部の金融機関では「仮払い制度」(相続手続き完了前でも一定額を仮払いできる制度)がありますが、投資信託の換金に対応しているかは各金融機関に確認が必要です。
Q. 被相続人がネット証券(SBI証券・楽天証券等)に口座を持っていましたが、IDもパスワードも不明です。どうすれば手続きできますか?
IDやパスワードが不明でも相続手続きは可能です。ネット証券でも「相続手続きのための本人確認・口座照会」のプロセスが用意されています。各証券会社の相続手続き専用窓口(電話・メール)に「相続人として口座を確認したい」旨を連絡して、必要な書類(戸籍謄本等)を提出することで口座の存在確認・残高照会・相続手続きを進められます。不正アクセスの問題があるためIDでログインしようとするのではなく、必ず正規の相続手続き窓口を通じて対応してください。

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